吉本コーチの助言でヒットを量産
育成重視のホークスが誇るスカウト陣が発掘してきた逸材たち。今のチーム事情のニーズと照らし合わせた時、何としても才能を開花させてもらいたい選手が、3年目の黒瀬健太だ。
初芝橋本高校で通算97発の本塁打を放った右のスラッガーである。しかし、プロ入り後は自慢の打撃で苦戦しており、まだ1軍出場はない。今季も4月に2軍公式戦で本塁打を放ったが、多くを3軍で過ごすシーズンとなった。
それでも夏場になり、何かコツを掴んだかのようにヒットを量産し始めた。関川浩一3軍監督によれば「外角のスライダーが苦手で春先はそのゾーンに限定した打率が1割未満しかなかったのが、夏以降は3割後半と劇的によくなったんです」という。
黒瀬は「吉本コーチに感謝しています」と話す。
「すごく具体的に分かりやすい言葉でポイントを伝えてくれるから、自分の何がおかしいのか、どこを変えればいいのかが理解しやすいんです」
黒瀬が変わったのはミートポイント。前に置きすぎて泳ぎながら振る形になっていたのを、しっかり呼び込めるようになった。また、スイングの軌道も「去年までは上から叩こう」という意識が強すぎるあまりに、ボールとバットを“線”で結べずに点でとらえていたために確率が悪かった。「アッパースイングでもいいんだぞ」。その一言で修正が出来、持ち味の柔らかいバットスイングの感覚も取り戻した。
「自分に合うバットに悩んでいた時も、吉本コーチが自宅からいろいろ持ってきてくれて、その中から城島(健司)さんのモデルのものを使ったこともありました」
2人のやりとりを傍で聞くと、決して優しい言葉遣いではない。辛口なこともある。でも、その裏側には愛情があることは伝わってくる。昨年までホークスに居た鳥越裕介コーチに似た空気感がある。
大本、増田らも3軍で急成長
また、黒瀬の他にも、まだ育成枠ながら左打ちの大砲候補である大本将吾は2年目の今季、3軍で4番に定着するまでに成長した。
「1年目は上から叩く打撃をしていました。でも、ずっとおかしくて自分には合っていないのかなと思いながらも、他に方法が思いつかなかった。吉本コーチからアドバイスを貰い、レベルスイングというかアッパースイングでもいいという感じでバットを振るようになると、明らかに手応えが違ってきました」(大本)
横浜高校から入団した1年目の増田珠は3軍ながら打率3割以上を残し続けた。
「高校時代は金属バットだったので、後ろを大きくとって、あとはボールに衝突させようと思って振っていました。でも、プロは木製バット。吉本コーチにアドバイスも貰いながら、打ち方を変えました。力まず、自然とトップを作ったところから最短距離でバットを出すことを心がけました」(増田)
高3夏の神奈川県大会では同大会新の4試合連発と同タイの5本塁打を記録したが、「僕は中距離打者タイプだと思っている。ツボに入ったら大きな打球も打つけど、毎年3割を打つ打者になりたい。そして目標は2000安打」と語る。そんな将来を予感させる打棒をさっそく発揮したルーキーイヤーだった。
かつて最強世代のナンバーワン打者と呼ばれた男の育成手腕。ホークスの将来が楽しみだし、新しいスターの出現はプロ野球界の未来も明るく照らす。
「実際は不可能な話かもしれないけど、3軍でやっている選手、まだ育成の選手もみんなが上の世界で勝負できるようになってほしい。そう思いながら選手とは接しています。大変なことだし、しんどいことを乗り越えなければならない。だけど好きな野球をやっているんです。そう思えば、彼らは無駄にする時間なんてないはず。そんな気持ちを持ってやってほしいです」
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