弘法も筆の誤りである。

「4番ウィーラーに代わりまして代打今江。マリーンズ……。(一呼吸をおいて) イーグルスのバッター、今江。背番号8」

 ZOZOマリンスタジアムで行われた9月17日のイーグルス戦。九回表のイーグルスの攻撃でハプニングは起きた。二死走者ナシの場面で4番ウィーラー内野手に代わって、代打・今江年晶内野手。ネクストバッターズサークルから打席に向かう今江に場内アナウンス担当の谷保恵美さんの声が飛んだ。一瞬、誰もが聞き慣れた響きに違和感はなかったが、よくよく考えると「ちょっと待てよ」となった。本人もハッとした。一呼吸を置いて言い直した。

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やっちゃったポーズの谷保さん ©梶原紀章

ハプニングを呼んだ廊下での偶然の再会

「その前日に偶然、球場の廊下で今江さんと会ったんです。直接、お会いするのはたぶん移籍後初めてだったと思います。『お久しぶりです。お元気ですか? 相変わらずいい声をしていますね』と声をかけていただいて……。それがどこか頭の片隅に残ってしまっていたのだと思います。大変、失礼しました」

 ウグイス嬢歴28年目。今年の5月18日には一軍場内アナウンス担当1700試合を記録し、6月1日には一軍場内アナウンス担当の連続試合担当記録を1500試合まで伸ばしたレジェンドウグイス嬢は照れくさそうに笑った。02年から15年までの14年間、千葉ロッテマリーンズの主力としてチームに多大な貢献をし、16年に惜しまれながらイーグルスにFA移籍をした今江。何度となく「マリーンズのバッター、今江」とコールしてきたその思い出が、久々の再会で脳裏の奥深くに閉じ込めていた記憶が突如、浮かび上がってしまったのだろうか。自然発生的に思わず、言い間違えてしまった。

「マリーンズの『マリー』と言ったところでハッと間違いに気がつきました。そこでとっさに止めて、一呼吸を置いて、『イーグルス』と言い直したのです」

 その時、場内アナウンス室も思わずザワザワ。スタッフの一人はネットをチェックし「もうすでにネットで騒がれていますよ」との報告まで上がってきた。一方で、打席に向かう今江を見ていたスタッフは「今江選手、少しニヤリと笑っていましたよ」とその表情も見逃さなかった。