「お客様の属性によって求められるサービスは異なります。定期利用者もいれば、インバウンドの方もいる。多様なニーズに最適解を提示することが重要です。また現在、世の中では交通系IC、クレジット、QRコードなどで乗れる鉄道路線が登場してきておりますが、選択肢を増やしすぎると逆に分かりづらくなってしまいます。

理想は一つの方式への集約ですが、現時点ではやはりICカードが決済の主軸と考えます。処理が圧倒的に早く、日本人の生活に深く根付いていますからね。

今回顔認証の実験をしていますが、この手法に固執しているわけではありません。今後も技術の発展に合わせ、柔軟に手段を検討し続けていきます」とのことだ。

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改札の形は時代に合わせて変わる。今回の取材で肌で感じたことである。

我ら客が求めるのは「一番得で楽な方法」だ

切符を買っていた時代から、交通系ICカードのタッチに代わり、そのタッチすら消えようとしている。

鉄道会社は、ただ鉄道を運行するだけにとどまらず、ユーザーのライフスタイルに寄り添う「サービス業」への転換を図っているが、多彩なこうしたサービスは「誰のためのものか」という視点も忘れずにいたい。

交通系ICにしろ、その他決済サービスにしろ、鉄道会社側にはコストの削減や顧客データの囲い込みという経営上の大きなメリットがあるだろう。一方で、ユーザーにとってベストなのは「一番楽な方法」。なんなら「一番お得で楽な方法」がもっとも理想の形だ。

確かに、顔認証はとても楽だ。あれを一度経験すると、タッチに戻れなくもある。しかし、顔認証を利用するには新たな登録など、ユーザーにとっては少なからず手間が発生する。「登録が面倒だからSuicaのままでいい」あるいは「クレカタッチでいいよ」と言われてしまえばそれまでだ。

クレジットカード決済が広がりを見せるなか、交通系ICカードはますます土俵際に追いやられると筆者は考える。「鉄道に乗れる」というだけでは、ユーザーを繋ぎ止めることはできない。自発的に「これを使いたい」と思える仕掛けが必要だ。

「顔認証で通れば運賃が安くなる」「乗れば乗るほど日常生活がお得になる」といった、ほかの決済サービスには真似できない、強烈に魅力的なサービスを期待したい。改札の常識が変わりゆく今、鉄道会社の真価を問う戦いは、これからが本番だ。

東 香名子(あずま・かなこ)
コラムニスト
鉄道コラムニスト。鉄道トレンド総研所長。メディアコンサルタント。外資系企業、編集プロダクション、女性サイト編集長を経て現在フリー。メディア出演多数。著書に『超タイトル大全 文章のポイントを短く、わかりやすく伝える「要約力」が身につく』ほか。
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