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将来は、ベストセラー予測も可能になっちゃう?

―― 普段はどのような研究をされているのですか。

篠原 一番研究しているのは、快感とギャンブル障害についてです。ギャンブル障害を理解するには、快感の構造や、モチベーションの仕組みをわかっていないといけない。

 

 たとえば、ゲームをしているときの脳内のドーパミンは、報酬を得たときよりも、報酬を得ることに役立ちそうなグッズを手に入れたときが分泌が多いとか。パチンコの場合、いろいろな種類の台がありますけど、台ごとに快感の与え方が違うんですよ。なので、今は台が与える快感を数値的に示す研究をやっています。

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―― そんなことまで、数値でわかってしまうのですか。

篠原 結構いい予測ができるんですよ。変な話、「この台はこの構成だからダメ」とかわかる。

―― 開発者からしたら、嬉しいような、恐ろしいような……。

篠原 将来の話だけど、「週刊文春」の◯月◯日号と×月×日号のどっちがおもしろいのか、数理モデルで示すことが可能だと思っています。ヒット本の予測モデルとかも、そのうちできるんじゃないかな。

問題の解決は、過去に芽があることが多い

―― 大学では、「学生相談室長」も務めていらっしゃいますね。

篠原 今の大学に勤めだしたときは、臨床的なことをやる気は全然なかったんです。ところが、ある先生に「あんた、学生のとき、相談やってたでしょう」と。結果的に30年弱くらい、学生相談室をやっています。

 現在は全体のコーディネートをする立場ですから、直接学生の相談を受ける機会は減りましたけど、一時期は毎日のように学生相談していました。

――「NHK夏休み子ども科学電話相談」でも、お話ぶりがカウンセラーさんのように聞こえることがあります。

篠原 実際に、臨床的スキルで答えることも多いですよ。先日は、「9歳の妹さんが忘れ物や遅刻ばかりするが、困っている様子がない。どうやったら困ってもらえるのか」という質問をもらいましたが、困らせることが解決かどうかあやしい。

 このケースでは、きょうだい仲もよさそうなんで、妹さんがちゃんとできてた場面を思い出してもらった。「遅刻しなかったときってどんなとき?」「忘れ物をしなかったときはどんなとき?」と。過去に解決の芽があることが多いので、それを探してもらうと、なんだかうまくいくことも多いので。

気になる“あの回答”の真意

―― 昨年の「NHK夏休み子ども科学電話相談」で「パンツは穿かなければならないのか」という質問に、「自分も、ホテルに泊まるときは脱ぐ」と回答されていたのも印象的です。

篠原 えっ、それわたし? 確かに脱ぎますけど……。それ、わたしじゃないと思うよ。

 

――「科学的には穿かなくてもいいが、文化だと思って穿いてはどうか」というような回答をされていました。

篠原 じゃあ、わたしなんだ。こんなに記憶がなくていいのかな。

「原因探し」ではなく「解決探し」を

―― 子どもたちや大人たちへ、伝えたいことはなんですか。

篠原 疑問を持つことはとてもいいことです。でも、疑問を疑うのがもっと役立つこともあります。

「こころ」の問題では、原因がわかってもどうしようもないことが多いので、使える道具を探し、解決に役立つことを探すことが大事だと思います。わたしは、「原因」を追求するのではなく、解決に役に立つリソースを活用することに注力する、「解決志向アプローチ」という心理技法を学んで、すごく楽になりました。

 原因探しではなく、解決探し。解決に役立ちそうなリソースは何か。解決が起きてしまった朝はどんなものだっただろう。いつもと何が、どう具体的に違ったのか。そういったことを考えてもらって、「解決できる? じゃ、しよう」と伝えたいですね。

 

写真=深野未季/文藝春秋