子どもたちのさまざまな質問に、各分野の専門家が「先生」として回答する「NHK子ども科学電話相談」。「昆虫」「天文・宇宙」「心と体」「鳥」それぞれの分野から、4人の先生たちの子ども時代についてインタビューしました。
今回は、「セミを舐めても味がしなかった」という相談に、「むしゃむしゃ食べてみてはどうか」と回答して波紋を呼んだ「昆虫」の先生、非営利団体昆虫科学教育館館長・久留飛克明(くるび・かつあき)先生にお話を伺います。
知識をちゃんと伝えた上で「判断するのはあなたやで」
―― 先生の子ども時代について教えてください。
久留飛 出身が、広島県の三原というところなんです。当時は漁港があって、砂浜には塩田、家の裏には山がありました。特に山は毎日のように行ってました。木の実を取ったり、虫を捕ったり、秘密基地をこさえて楽しんだりね。
裏山に出かける道々、「ここはカミキリムシがいつも来ている木や」とか、「ここはクワガタが来るとこや」とか、なにかしら捕まえていましたね。大人が付き合うなんていうことは、まあなかったな。
―― その後、「虫」に関する仕事をするようになった経緯を教えてください。
久留飛 大学で害虫学を専攻した後、大阪の保健所で環境衛生監視員として、市民の方からの害虫の相談に対して指導やアドバイスをしました。
害虫相談の仕事では、知識をちゃんと伝えた上で「判断するのはあなたやで」というスタンス。たとえば、「アシナガバチが軒下に巣を作っている」という相談があったら、とりあえずはアシナガバチの生態の説明をします。その事実、知識を伝えた上で「今やったらこうしたらいいよ」「秋になったらそろそろ居なくなるから、放っておいてもいいんじゃない?」と、あとは相手の判断に任す。
重大な感染症を媒介するものであれば、もう少しはっきりと指示をしないとあかんけれども、刺される、噛まれるぐらいの被害であれば、それはもう自分で考えてよ、という。
答えはひとつじゃないことのほうが多い
―― そうした考え方は、今の仕事でも変わりませんか?
久留飛 そうですね。今は昆虫科学教育館の館長をやっていますが、子どもたちに昆虫を好きになってもらうということを目標にしているわけではないです。むしろ、昆虫を入り口に「自分で答えを見つけよう」ということを伝えたい。
学校教育では、「この問題の答えはこれ」ってはっきり決まっていますよね。そうやって、問題に対して「答えってひとつに決まってるやろ」というトレーニングばっかりしてきたら、子どもは「何個も答えなんかあるわけないやんか」と思ってしまう。でも世の中、答えがひとつといえないことばっかりやないですか。
「カタツムリってなんでのろいの?」という質問をもらったが……
―― 答えがいくつかあるかもしれないと気づくには、どんな態度が必要なんでしょう?
久留飛 まずは問題を疑うことやね。問題に条件付けをして、こういう条件の問題やったら答えはこっちだし、条件が変われば答えはこっちじゃないか、とか。すぐ出る答えはこうやけど、1年先なら違う答えかもしれないね、とかね。
あとは、いろいろな立場を理解しようと努めること。「NHK夏休み子ども科学電話相談」で「カタツムリってなんでのろいんですか?」って質問をもらいましたけど、「それはあなたはのろいと思ってるかもしらんけど、カタツムリはそんなん思ってるんかな」っていう。
同じ知識でも、そこにどんな意味付けをするかは立場によって変わりますよね。私はこう思うし、あなたはそう思うし、昆虫はどう思うだろうって。勝手に「いい」とか「悪い」とか、「汚い」とか「きれい」とか、向こう側からしたら「そんなのあんたに言われたないわ」と思うんだろうなと。