緊張したのを覚えている理由は、どうやって曲に入ればいいかわからなかったからです。室内楽は空気感を合わせて演奏を始めるものですが、それが掴めないから僕だけ先に弾き始めてしまい、お二人が入ってこない。始めて2秒後に演奏を止めて、「ああ、やってしまった……」と。それまでピアノのソロか、2人で弾く連弾程度しかやっていなかったので、ほかの楽器と合わせる経験が少なかったんです。ちょっとしたトラウマになっています。
緊張はいまでもしますよ。でも、それはいいことと捉えています。緊張しなかったら、練習と変わらないわけですから。本番にしか出せないパワーが出せるとしたら、緊張感のあるおかげです。緊張が高揚感に変わることもあります。どれだけステージを重ねても、舞台に出る直前に、自分の手首で心拍数を確認します。「今日も早く鼓動している、やっぱり緊張しているんだ」と自覚しながら、ステージに向かっています。
ファスナーを閉め忘れる
コンサートでミスをしたことですか?
それはありません……と言いたいところですが、ズボンのファスナーを開けたままステージに出てしまったことが一度あって。途中で気づいて、水を飲むふりをして舞台袖に下がって閉めました(笑)。
いまはコンサートのスケジュールがだいぶ先まで埋まり、最近は再来年の話をしています。ホールを押さえる以上に、大人数のオーケストラの場合は、スケジュールを早く押さえなければならないからです。人気のある指揮者は数年先まで予定が決まっています。
個人のリサイタルはそれに比べると決まるのはわりと遅く、1年から1年半ほど先の日程です。それでも、準備のために1年先に演奏する曲のリストを出さなければいけません。頭の中にある「弾きたい曲目リスト」はたくさんあってキリがないので、いつも決めるのに困ります。
※この続きでは、「AIにできない演奏」について角野さんが語っています。約7000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年6月号に掲載されています(角野隼斗「開成、東大からカーネギーホールまで」)。
※角野さんが登場したグラビア「日本の顔」もぜひご覧下さい

