『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』(藤谷千明 著)

 本書は、風俗業に対して真正面から向き合った本だ。著者の藤谷千明さんは、「既存の関連本を読んで、自分が感じていることとは違うな、と思ったのが、本を書いたきっかけです」と語る。

 2010年代末、離婚したばかりの藤谷さんは、マッチングアプリが面倒になり、初めて女性用風俗(女風)を利用してみた。男性用風俗に比べて圧倒的に数が少ない女風は、ここ十数年で徐々に増えてきた。利用したのは、120分で2万円(税別)のプラン。安くはないが、働く側にとっては、どうだろう? 〈セラピスト〉と呼ばれる男性キャストは、気遣いがプロだった。だが利用後、「一線を越えた」と感じたという。

「数年前、女風がメディアで話題になり始めた頃には、心の繋がりを大事にしているとか、性欲よりも癒しを得られるから素晴らしいといった論調の記事が多かったのです。一方で、男性用風俗に対しては『女性の尊厳を傷つけている』という議論がありますよね。私も利用したあとに『これは性的搾取なのでは?』と後ろめたさを感じました。それでも利用を続けた。そんな自分の『欲望』について考えたかったんです」

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 また、メディアが女風を取り上げる時、「なぜ女性が風俗に?」と、女性にばかり理由を求めていることにも疑問を感じたという。

「そんなこと、男性用風俗に行く男性には誰も聞きませんよね? 男性用風俗を題材にしたルポでは男性客ではなく女性キャストに理由を聞くというのに。読者の需要といえばそれまでかもしれませんが、そういったメディア側、書き手側の『欲望』についての本でもあります」

 女風を継続的に利用し始めると、ルカという「推し」ができた。約一年の利用で、プレゼントやご飯代を含めて100万円ほど使ったという。自分は何を買ったのか、藤谷さんは考える。

 なかには、「店選びを失敗したな」と感じたこともあった。その時、男性用風俗の女性キャストを笑いのタネにする男性の気持ちもわかってしまった。そこに男女差はないのかもしれない。

藤谷千明さん

 取材は続く。

 風俗の運営側、男性キャスト、女性キャスト、ホス狂いの人など、様々な側面から深掘りしていく。そして次第に、「性風俗の利用は、性欲の問題でありつつ、性欲だけではなく複雑な感情や社会的な圧力、男性の『弱さ』と深く絡み合っているのではないか」という疑問が強まっていく。それを解明するために藤谷さんは、男性用風俗で働くことにした。

 自分が相手にした男性客と、女風を利用するときの客としての自分。そこには思っていたほど違いはない、とやがて気づいた。取材したセラピストのカイさんは、「女も男も、風俗に行く人って『寂しいから』が一番大きいんじゃないかな。(中略)(男は)『俺は孤独ですごく寂しい』って言えないだけ」と言う。「女性の性欲」と「男性の弱さ」は世間に認められてこなかったのだ。

「SNSなどの感想には、私が風俗で働いたことをこの本の『ネタバレ』として伏せている投稿が多いのです。『ネタバレ配慮』の時代ですね。友人からは『まさか働くとは思わなかった』と言われました。タイトルに性風俗を利用したことは書いてあるのに、働いたことは驚きをもって受けとめられる。では、そこにはどんな『一線』があるのでしょう。本当に『ネタバレ』だけの問題なのでしょうか。この社会はたくさんの見えない『一線』が複雑に絡み合っている。その一つひとつの線引きについて、考えていきたいですね」

ふじたにちあき/1981年、山口県生まれ。主にサブカルチャー分野で執筆を行う。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』『推し問答! あなたにとって「推し活」ってなんですか?』。