――実際にレベッカのモデルとなった人物はいたのでしょうか?
ワンデル モデルがいたわけではありませんが、小児科医からこういう行動をとった母親がいるという話を聞き、そこから物語を発想していきました。レベッカとアダムの物語はフィクションですが、それ以外のほとんどのシーンには私が実際に見聞きしたことが反映されています。たとえばルシーがいる病院は、様々なルーツをもつ患者や家族が混ざり合うため、医療従事者と患者たちが共通の言語で会話をし、理解し合うことすら難しい状況に置かれてしまう。これは私がリサーチした病院で実際に見聞きした状況そのものでした。
観客を没入させる撮影スタイル
――撮影スタイルについてうかがわせてください。本作では、カメラは人物の後ろ姿を至近距離から追いかけていきます。これは、本作のプロデューサーであるダルデンヌ兄弟が確立した手法のひとつともいえますね。
ワンデル 私は今回、人物たちの至近距離から撮影することを心掛けていました。それは、私自身が病院で取材をしたときの距離がそうだったからです。病院での私は、研修生のようにつねに誰かの後ろにつき、そこで起きる物事を観察していました。それがカメラの距離感につながりました。
人物の背後から撮ったのは、観客を登場人物のリズムと同期させるため、と言えばいいでしょうか。ルシーは病院内のいろんな場所を行ったり来たりする。その彼女を後ろから追っていくことで、観客はいつのまにかルシーの視点をリアルに感じ始め、彼女とほとんど一体化していく。後ろから撮ることで、そういう没入的な状況が生まれるのです。
観客が想像する余地を増やしたいという思いもありました。人物の後ろから撮ると、登場人物の顔はほとんど見えなくなります。ルシーが今どんな表情をしているのかがわからなくなることで、彼女が今どういう歩き方をしているか、どんなリズムで動いているのか、観客はより注意深く彼女の様子を観察するようになる。そうすることで、状況に対する想像がより膨らむように思うのです。


