北中米W杯で4大会連続の出場を果たした韓国代表主将、ソン・フンミン。そんな彼を巻き込み、韓国全土を激震させたのが2024年に起きた「卓球事件」だ。アジアカップ準決勝の前夜、卓球で騒ぐイ・ガンインらを注意したところ激しい衝突に発展。ソン・フンミンの指が脱臼するという事態になった。

 だが、韓国のサッカー事情に詳しい吉崎エイジ―ニョ氏は、「選手と韓国メディアとの間に、考え方のギャップがあったのではないか」と指摘する。そのキーワードとなるのが選手の「欧州化」だ。欧州リーグで活躍する彼らのメンタリティに迫った著書なぜ日本サッカーは強くなったのか ‟神とサッカー"から紐解く日本代表の欧州化より、一部を抜粋して紹介する。(#1からつづく)

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「年下が年上に歯向かった」

 事件の夜、ベテランの選手数人がクリンスマン監督のもとへ行き、「イ・ガンインをヨルダン戦のメンバーから外してほしい」と要求したと伝えられている。しかし監督はそれを受け入れなかった。イ・ガンインは翌日のメンバーリストに残ったままだった。

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韓国代表のイ・ガンイン(左)とソン・フンミン(2024年アジアカップで) ©時事通信社

 この夜の出来事は、アジアカップ敗退後、英国の「ザ・サン」など海外メディアの報道から明らかになっていった。「イ・ガンインが拳を振るい、ソン・フンミンの胸倉をつかみ、指を負傷させた」という流れで。

 韓国国内ではやはりこの件について、「年下の選手が年上に歯向かった」という点が重大に捉えられ、メディアでは「下克上」といった言葉が躍った。現場ですぐに必要な対応をしなかったクリンスマン監督もまた、強い批判の対象になった。

 韓国は年齢による上下関係の強い国ということは、よく知られるところだ。5つの基本的な人間関係で守るべき徳目である「五倫」のうちの一つ「長幼の序」(長者を敬う)に基づくものだ。加地伸行の『儒教とは何か』(中央公論社)にはこう記されている。

〈西暦前1100年~前256年頃の中国の共同体では、いわゆる年中行事があり、その行事はくりかえし行なわれるので、見習うべき先輩の知恵や知識となる。すると、年中行事の諸儀式や知識に熟達した長老が重んじられる。そういうことから、いわゆる長幼の序という慣習がしぜんと成り立つ。儒教はそれを取りこんでいる。〉

〈このような儀礼に熟達した年長者への尊敬が、一つの指導者像を生み出す。すなわち共同体道徳の体現者、熟達者への敬意である。〉

 神ではなく、人への尊敬が強い。この点はキリスト文化圏との違いでもある。さて、ここで当事者たちは果たしてどう思っていたか。