筆者が目の当たりにした“鬼の顔”
ただ、鬼の顔を見せることもある。たとえばウォーミングアップで、ある選手が女性との飲み会の話をしていたときのこと。全員を集めて「今、その話は必要か?」と厳しい言葉を投げかけたのだ。その選手はすぐに反省して謝罪した。
出番が少ない選手が練習で不貞腐れた表情を見せたときは、「チームのためにプレーするつもりがなければ、今すぐに帰っていい」と告げた。以降、その選手はことあるたびに「チームのためにプレーしたい」と発言するようになった。森保は意図をこう説明する。
「日本代表において何より優先されるのはチーム。各自に成功したいという気持ちがあることは理解していますが、目標を成し遂げるためにチームが最も高い優先順位に来なければいけない。なので結構、きつく言わせてもらいました。『個人の価値を上げるという考えだけの人は、それはクラブでやってほしい』と伝えています。人を育てようと思ったら、優しさと厳しさは絶対的に必要です」
実は筆者も「鬼」の森保に直面したことがある。24年のアジアカップ敗退後、守田英正のチーム批判と捉えられかねない発言を記事にしたところ、森保に「私を解任するために記事を書いている可能性もありますからね」と鋭い目つきで真意を問われた。筆者が「日本にもヨーロッパのようにサッカーを真剣に議論する土壌が必要」と説明すると、いつもの「仏」の表情に戻ったが、あのときの迫力はいまだに忘れられない。
今回、日本はオランダ、チュニジア、スウェーデンと同じF組に入ったが、勝利を計算できる相手がいないことから「隠れ死の組」と呼ばれている。F組を勝ち上がったとしてもベスト32で、優勝候補ブラジルか前大会ベスト4のモロッコと対戦する可能性がある。
森保に油断はない。壮行試合のアイスランド戦後、こう言って気を引き締めた。
「親善試合で勝ったからといって、W杯での勝利が約束されているわけではない。有頂天にならないようにしないといけない」
“逆転監督”の新たな戦いの幕が上がる。
(文中敬称略)
きざきしんや/1975年、東京都生まれ。中央大学大学院修了。2002年からオランダ、ドイツで欧州リーグを取材、帰国後は『Number』などに寄稿。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。
