「おはようございます、司会の御厨貴です」で始まる日曜朝の長寿番組『時事放談』。この9月末で14年半にわたる歴史に幕を閉じることとなった。「元老クラス」から現役若手政治家までが政治を語り合う、今や独特のスタイルのこの番組。知られざる「舞台裏」を御厨さんに伺いました。(全2回の1回目/#2へ続く)
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「時めいている」政治家、そうじゃない政治家を観察できた
――『時事放談』の司会は約11年半続けてこられたことになるんですね。
御厨 そうですね。僕が司会を務めたのは580回。1回につき2人のゲストを招いていますから、ざっと延べ1000人以上の方々をお相手にしてきました。
――政治学者が政治家に会い、生の政治にふれる機会はなかなかないのでは。
御厨 勉強会に呼ばれて参加するとか、政府の諮問会議に招集されるとか、機会がないことはないですが、多くあるものじゃないですね。僕の場合も司会を打診された当時は政治史研究、特に明治期の政治を専門にしていましたから、この番組は現在の政治、生の政治家にふれる貴重な時間になりました。
――新刊の『平成風雲録』でも『時事放談』での思い出を書かれていますが、この番組で「生の政治」にふれて一番面白かったことは何ですか。
御厨 政治家の「変容」を定点観測できるのが面白かったですね。特にね、政治の世界というのは現役であっても、引退後であっても「時めいている時期」とそうでない時期があるものなんです。すると、時めいて周囲の注目を集めている政治家がどういう仕草をし、そうでない政治家はどんな振る舞いをするか、立場が変わるとどう人間が変わるものか、政治家という人間をじっくり観察できるんですよ。
すごかったのは収録前のメイクルーム
――印象的だったことは、たとえば……。
御厨 すごかったのは収録前のメイクルーム。政治家同士の戦いというのはここから始まっているんだね。人気政治家の周りには自然と人が集まる。すると、もう一人の方はだんだん表情が険しくなってくる。僕なんか「まずいぞ、爆発するぞ」なんて見入っちゃうんだけど、ある政治家はすごかった。ついに不機嫌が極まって「あんた、最初に出た選挙で、誰が最初に応援演説したか覚えてるか」ってギロッと睨んだ。「ハッ、〇〇先生でございます!」って、時の政治家も直立不動になっちゃって。かつて鷹揚に構えていた大物政治家も、立場が変わるとこうやってストレートに怨念を表にして発するものなんだなって思いましたよ。