「加藤は熱いフライパンの上でネコ踊りさせておけばいい」。そのむかし、森内閣への不信任決議案に加藤紘一が同調する動きをみせた際に、橋本龍太郎が言い放った言葉である。世にいう「加藤の乱」(2000年)、半泣きの加藤に「大将なんだから、一人で突撃なんて駄目ですよ」と谷垣禎一が激する、あれだ。権力闘争慣れしていない加藤の未熟さもあって、老練な実力者・野中広務らに切り崩されていき、中途半端な結果に終わる。そうして加藤は政治生命を失った。

世に言う「加藤の乱」 ©時事通信社

鉄オタ議員としての面目を保った石破茂

 今回の総裁選は、安倍陣営にとってはさしずめ「石破は熱いフライパンの上でネコ踊りさせておけばいい」であっただろう。6月、出馬に意欲を示す石破に対して、「現職首相に対抗しようだなんて退陣要求に等しい」(注1)と安倍は奇っ怪なパンチラインで牽制。裏では、石破支持にまわった竹下派を切り崩して自主投票に持ち込んだり、街頭活動に誘われていた地方議員を恫喝したりと「石破潰し」に余念がない。

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 対する石破は、「正直、公正」と小学校の教室に貼られていそうなスローガンで安倍に挑む。するとそんな安倍への当てつけを言うのは《「野党のようだ」と批判をされ、自らの陣営でも「個人攻撃は控えて」》(注2)とたしなめられて、腰砕けとなる。それでも地方に強いという自負や地方創生を謳うこともあってか、47都道府県別のビデオメッセージを制作し、これには政治学者で鉄道にも造詣が深い原武史が「彼が『乗り鉄』であることと大いに関係がある」(注3)と看破するツイートをし、また実際に地方票を集めて、鉄オタ議員としての面目を保つ。