「あの時間がなかったら、今の自分はいない」

 西の“見捨てない姿勢”は、一ノ瀬自身の人生経験とも重なる。高校を辞めて上京し、キックボクシングと仕事の両立に苦しんだ末、沖縄の内弟子制度に飛び込んだ日々。携帯電話も持てず、朝から晩まで練習漬けの生活の中で、支部長から礼儀や生き方を叩き込まれた。

「砂鉄の入った麻袋を毎朝1000発殴れって言われて、骨が見えてるんじゃないかというくらい皮膚がめくれていることもありました。指導は厳しかったけれど、普段の生活では優しく僕たちに接してくれた。あの時間がなかったら、今の自分はいないと思います」

©2026 N.R.E.

 物語の中で、西は自分の過去の罪とも向き合うことになる。海斗の父・陽平(篠原篤)は、若い頃に西と対立し、西に片足を不自由にされた過去を持つ。

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「でも、西は陽平にしたことを覚えてすらいない。覚えていないけれど『たしかにあのころの俺なら、やっているだろうな』とは思っている。でも今は子どもたちを預かる身として、ここでケジメをつけなきゃいけない。ただ、反省はしているけど、西はピンとは来ていない。つい過去を武勇伝みたいに語ってしまう驕りもある。西は完全な善人じゃないんですよ」

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殺伐とした空気は一度もなかった

 作品の重さとは裏腹に、撮影現場は驚くほど和やかだった。現場では若い俳優たちとの距離も自然と縮まり、打ち上げに来られなかった子どもたちに自腹でスタッフTシャツを贈るなど関係性も深まっていった。

「𠮷田監督って撮影がとにかく速いんですよ。アクションシーンで(撮影時間が)巻いたのは初めての体験でした(笑)。しかもスタッフ全員が𠮷田監督の気持ちを理解している。一度も殺伐とした空気がなかったのが印象的でした」

 ちなみに、大のうさぎ好きとして知られる一ノ瀬だが、今回の撮影中、𠮷田監督も垂れ耳のうさぎを飼っていることを知ったという。

「監督がうさぎを抱っこしたまま買い物に行くこともあるらしくて(笑)。僕はいま8羽飼っています。日々仕事で忙しいけれど、うさぎがいるから頑張れる。僕にとっての人生の“余白”はうさぎですね」