人は変われることを信じて役を生きた

 撮影が進むにつれ、現場で交わされる感情の密度に圧倒される瞬間が増えていったらしい。

「台本を読んだ時より、演じていくうちに『これはいま、すごい作品を撮ってるな』と強く感じるようになりました」

©2026 N.R.E.

 だが、精神的に追い込まれる場面も多かった。海斗の家に謝りに行くシーンの撮影後、一ノ瀬はふと独りになりたくなり、近くの山道に座り込んだという。

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「地元の人に『お疲れですね』って声をかけられたんです。身体は全然疲れてないんですよ? でも、表情に出ていたんでしょうね……それくらい、心の消費カロリーが高かったということだと思います」

 本作の経験は、一ノ瀬にとって表現の幅を大きく広げるものとなったようだ。

「とにかく役と向き合う時間はこれまで以上に濃密でした。演じている最中、細かい感情の揺れに自分自身が反応していく瞬間に、手応えを感じました。それだけに、西と完全に同化してしまうと、危ない。だから“心は役に寄せる、頭は俳優として冷徹に”という姿勢を大事にしました」

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『サンクチュアリ』で学んだというそのバランス感覚が、本作でも大きな支えになった。

 人は変われるのか、過去の罪は赦されるのか。作品が投げかける問いは重く、簡単に答えの出るものではない。一ノ瀬は、西を演じながらも「人は変われる」という自身の確信を手放さなかったという。

「その思いを持ちながら西を生きました。この映画を観終わった後に、皆さんの心に問いが残ると思います」

 その言葉は、作品が抱える“余白”を静かに照らしている。

いちのせ・わたる 1985年生まれ、佐賀県出身。2009年『クローズZEROⅡ』で俳優デビュー。Netflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(23年)の主演で存在感を発揮。近年の主な出演作に、ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』『イクサガミ』『インフォーマ』(いずれも25年)、映画『炎上』(26年)などがある。

INTRODUCTION

『机のなかみ』(06年)『ヒメアノ~ル』(16年)『ミッシング』(24年)などさまざまな話題作を発表してきた𠮷田恵輔監督の最新作。今回、若き日にヤンチャな時代を過ごした𠮷田監督が提起する問題は、教育。対話で人を導くことの難しさ、そして人が更生することの真の意味を問いかける。Netflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(23年)の一ノ瀬ワタルが主演を務め、悩める教師役に夏帆、物語を展開させる不良少年に上阪隼人を起用した。

 

STORY

かつて半グレで受刑者となった経験を持つ西健吾(一ノ瀬ワタル)。今は自分の体験を糧に、海の見える地方都市で、道を踏み外しかけた子どもたちを更生へ導く全寮制の施設「みらいの里」を運営している。だが体罰も辞さない厳しい更生方針は、教育関係者から批判されていた。ある日、中学教師の草野冬子(夏帆)から手に負えない生徒の澤海斗(上阪隼人)と、鑑別所帰りの内藤悠(和田庵)について相談を受ける。西は海斗の危うさを見抜いて「みらいの里」に連れて行くのだが、海斗は脱走。その謝罪と捜索のなかで出会った海斗の父・陽平(篠原篤)は、西に怪訝な目つきで話しかける……。

 

STAFF & CAST

監督・脚本:𠮷田恵輔/出演:一ノ瀬ワタル、夏帆、上阪隼人、篠原篤/2026年/日本/106分/配給:アークエンタテインメント/©2026 N.R.E.

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