私たちにできる現実的ながん予防策

最後に、がんになるかどうかには「運」の要素もあります。というか、運の要素のほうが大きいかもしれません。感染症対策を行なって、タバコを吸わず、お酒を飲まず、きちんと運動して適正体重を維持していても、がんになる人はいます。反対に長年にわたってタバコを吸い続けても、大きな病気をせずに天寿を全うする人もいます。しかし、それは喫煙や飲酒が安全だという意味ではありません。予防とは「必ず防ぐ」ためのものではなく、「確率を下げる」ためのものです。

国立がん研究センターは、「禁煙」「節度ある飲酒」「適切な食生活」「十分な身体活動」「適正体重の維持」という5つの健康習慣を実践している人は、ほとんど実践していない人に比べて、がんの発症リスクが男性で43%、女性で37%低いと推計しています。残りの多くは加齢や遺伝、偶然の要素など、私たちにはどうしようもない部分です。

この数字を大きいと感じるか、小さいと感じるかは人によって異なります。「3~4割も減る」と考える人もいれば、「それだけ努力しても3~4割しか減らない」と考える人もいるでしょう。そこは人それぞれ。どの程度まで生活習慣の改善に取り組むかは、最終的には個人の価値観や人生観による部分が大きいといえます。

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お酒のリスクの話をすると、「そんなに我慢して長生きして幸せなのか」と言われることがあります。私自身、お酒は飲みます。別に誰かに禁酒を強制したいわけでもありません。ただ、お酒を飲むことにリスクがあるのは事実です。そのリスクを知った上で、それ以上の価値があると考えるならお酒を飲めばいいという話です。

他のがん予防対策も同じです。できる対策は行う。しかし、それで100%防げるわけではありません。人事を尽くして天命を待つ。結局のところ、それが私たちにできる最も現実的ながん予防なのだと思います。

名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。
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