銀座には“自浄作用”がある

 1つは、民間団体の「銀座デザイン協議会」による年間300件の地道な対話だ。看板の色やデジタルサイネージのコンテンツなど、細やかな調整を重ね、各社に対して「銀座ならではの店づくりをしてほしい」と粘り強く要望し続けている。法的強制力はないが、事業者との信頼関係を積み上げることで機能している。

マロニエゲート銀座2の入口には、各チェーンによる英語の看板も。しかし銀座の街全体として、インバウンドに特化した印象はそこまで強くない(筆者撮影)

 もう1つは「銀座フィルター」と呼ばれる自浄作用だ。銀座街づくり会議事務局顧問の竹沢えり子氏によると、「銀座にふさわしくない店」は自然と消えていくという。

 例えば、かつて吉本興業が銀座7丁目に設けた「銀座7丁目劇場」は、たった数年で撤退した。また、デザイン協議で銀座関係者との信頼関係を築けないまま1年も保たずに消えていった事業者もいる、と竹沢氏は挙げ、「結果的に、銀座のお客さまが選ぶお店が残っている」と話す。協議会が強制力を持たなくても、お客が選別する。それが銀座フィルターの正体だ。

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銀座といえば百貨店の激戦区。銀座三越もインバウンド客で大盛況(筆者撮影)

 竹沢氏はこうも話す。

「自分たちだけがガバッと稼いで、売れなくなったら去っていくような人たちが一番銀座では嫌なんです。仲間として街に長く根付いてほしい」

 この言葉が示すように、銀座らしさは「信頼」の積み重ねによって成り立っている。店への信頼、店員への信頼、そして「あの人の手前、恥ずかしい商売はできない」という商人同士の信頼関係だ。前述の銀座フィルターが機能する背景には、こうした信頼の文化がある。コロナ禍は、その構造をはっきりと可視化した。感染拡大で人が来なくなったとき、真っ先に撤退したのはチェーン店だった。

 こうした街と事業者が一体となった、一過性のトレンドを追わない街づくりによって、興味深い逆説が生まれている。具体的には、インバウンド向けに特化しない銀座が、まわりまわってインバウンド客にとって「行きたい街」になっているのではないか、ということだ。