インバウンドは「日常の日本」を求め始めている
政策投資銀行(DBJ)と日本交通公社(JTBF)が2025年に実施した意向調査(DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2025年度版)では、訪日消費額が高い層ほど「本物体験」と「地域貢献」を重視することが明らかになった。
「なぜここでしか買えないのか」「なぜここでしか体験できないのか」というストーリーを持つ場所に、お金を払いたいと思っている訪日客が増えているのだ。
同調査では、インバウンドの地方訪問意向も引き続き高く、「自然・食・温泉」を核とした体験型消費へのシフトが続いていることが分かっている。谷中や三ノ輪にある昭和の商店街が外国人観光客の間で人気を集めているのも同じ文脈だ。
まとめると「インバウンド向けに作り出された日本」ではなく「日常の日本」「本物の日本」への関心が高まっている。
銀座が守ってきた「信頼」と「本物性」は、実はこうした訪日客が求めていたものと一致している。インバウンドに媚びない街が、結果としてインバウンドに選ばれる。この逆説こそが、銀座が銀座であり続けられる理由の一つかもしれない。
竹沢氏は、銀座の良さを「空が広いこと」だと言う。周囲を超高層ビルに囲まれながら、銀座だけがヒューマンスケールを守り続けているのだという。高層ビル群を抜けて銀座に入った瞬間にビル風がハッと止む。その良さに気づく人がどれだけいるだろうか、とも話す。
銀座が目指す未来は、2025年に発表された「銀座ヴィジョン2040」にまとめられている。それによると目標は、「街全体を歩行者天国に変えていくこと」だ。ヒューマンスケールの街並みを守り、歩いて楽しい空間を作る。車ではなく人の目線で設計された銀座を次の世代に引き継ぐ観点から、地下街の拡張にも消極的だ。「地下をひたすら目的地に向かって歩くのは単なる利便性。方向感覚もなくなる。銀座を歩く楽しみはそうじゃない」(竹沢氏)
インバウンド6000万人時代に向けて、全国の街で再開発が加速している。しかし、より便利に、より多くの観光客を呼び込もうとする方向だけが正解なのだろうか。
銀座が長年かけて守ってきたことは、ただ「高級な街を維持すること」ではない。街に根付いた人間関係と信頼を守ることで、銀座という場所が持つ本物の魅力を次の世代に引き継ごうとしてきた。それが結果として、インバウンド客にも選ばれる街を作っている。
「稼ぐことと、根付くこと」「インバウンドを呼び込むことと、街の本質を守ること」という対立は、どちらかだけが正解ではない。しかしどちらを選ぶかが、その街の未来を左右するだろう。
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