自動ドアを抜けると、消毒液の匂いが混じった冷たい空気が肺の奥に突き刺さる。足は鉛のようだった。それでも窓口へ向かう。心の隅で、最後の理性がかすかな声で叫んでいた。

「やめろ、髙倉。何かがおかしい」

 だが、愛子を救わなければという焦りが、その声を容赦なくかき消した。

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「どのようなご用件でしょうか」

 若い女性行員が、作り笑顔で事務的に問いかける。名札の「山田」の文字が冷たく見えた。

「……振り込みを」

 絞り出した声は、自分でも驚くほどかすれていた。震える指で差し出した振込用紙。「350万円」と書かれた数字を見て、彼女の眉がわずかに動いたのを私は見逃さなかった。

「ご家族へのご送金ですか」

 来たか。マニュアルどおりの質問だ。警察と銀行が作った、最初で最後の防波堤。

「いや、取引先に支払う金だ」

 嘘だった。真実を追い求めるのが法だ。ここでは簡単に嘘をついた。

頭の中で繰り返される「彼女の言葉」

「失礼ですが、最近、振り込め詐欺がとても多くなっています。本当に、お間違いありませんか」

 彼女の目に、一瞬だけ人間らしい色が浮かんだ気がした。それは疑いか哀れみか。私はその視線から逃げ、嘘を重ねた。

「ああ、間違いない」

 頭の中では、愛子の言葉が繰り返されていた。

「兄さん、お願いだから誰にも言わないで。特に銀行の人には……」