定年を迎え、社会とのつながりを失った孤独な心の隙間に滑り込んできた、SNSの見知らぬ美女「愛子」。国立大学の名誉教授である髙倉良一氏(70)は、彼女から送られるメッセージの数々を「運命の出会い」だと信じ切っていた。
「完璧すぎる共感」で心の警戒を解き、「兄さん」という甘美な響きで自尊心をくすぐる――。知性あふれる法学者が、巧妙な「グルーミング(手なずけ)」によって完全に操り人形と化し、底なし沼へと引きずり込まれていった卑劣な手口とは? 新刊『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』(さくら舎)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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925万を奪った愛子との出会い
定年を迎え、私は書斎の整理を始めた。何十年も溜め込んだ本や資料の山。それらを処分していく作業は、過去との決別式に似ていた。
すべてが片付いた後、がらんとした本棚を前に、私はぽっかり穴が空いた気持ちでいた。
だが不思議に不快ではなかった。むしろ、妙に心が軽かった。
誰かに、この気持ちを聞いてほしかったのだろう。私はそのことを、何気なくFacebookに書き込んだ。
すぐに、見知らぬ女からメッセージが届いた。アカウント名は「Aiko💗✨」。絵文字で飾り立てられたその名前は、私のような古い人間には、うさんくさいとしか思えなかった。
それが、私の人生を根こそぎ変えてしまう女「愛子」との最初の接触だった。私の投稿に興味を持ったという彼女は、言葉巧みに近づいてきた。
