「縁」。

 その言葉は、孤独で渇いた私の心に水のように吸収されていった。

「もちろん信じている」と、私は答えた。

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 彼女は自分の夢を語った。日本にいる父のため庭付きの家を買うこと。50歳までに世界一周をすること。そして、私に尋ねた。

「髙倉さんの夢はなんですか?」

 私の夢は「希望の未来」という構想だ。300年かけて、人間が人間らしく生きられる世界を築く――という夢物語だ。顔から火が出るほど青臭いと思うだろう。だが、私は真顔で語った。

 愛子は、それを真剣に受け止めた。

「髙倉さんの目標はとても偉大ですね。敬服します」

 この言葉は、私の心の閂を静かに外してしまった。

操り人形の独白

 なぜ、私は愛子の罠に落ちたのか。

 いや、違う。私が落ちたのではない。愛子が、私を選んで仕留めたのだ。

 国立大学法人名誉教授という肩書か。Facebookの投稿からにじみ出る、退職後の虚しさか。それとも、69歳、離婚歴ありという孤独なプロフィールか。

 答えは、そのすべてだろう。愛子は私という獲物の弱点を正確に見抜き、音もなく心の隙間に忍び込んできた。

 私は救いの女神だと思った。彼女の前に無防備に自分の内側をさらけ出した。

 しかし、その実態は、さらけ出された内側を食らう存在だったのだ。彼女は、私の矮小な承認欲求をくすぐり、すり減った自尊心を巧みに満たした。

 私が語る戯言を「偉大だ」と称賛し、私との出会いを「縁」という特別な言葉で飾る。孤独な老人に抗いがたい魅力を持つ毒だった。

 いつからだろうか。私は彼女の意のままに動く人形になっていた。自動人形は、質問に素直に答え、自分の情報を少しずつ切り売りしていく。その一つ一つが、後々自分を縛る鎖の輪になるとも知らずに。