スマホで赤ちゃんを買う日

 2025年10月末。

 遺伝子編集学者のルーカス・ハリントン博士は、健康に有害な遺伝子を修正したり、有益な遺伝子を外から入れることで胚のDNAをつくり変えて病気を回避する、新しい予防医療の公益法人プリベンティブ社を、3000万ドルの資金で立ち上げた。

 ハリントン博士によると、この技術の安全性が認められて実用化された場合、胚の編集費用は5000ドルほどになるという。

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 人を救う「新しい予防医療」と言われたら、誰が反対できるだろう?

 いくらタブーと言われても、需要が見込める以上、この分野に挑む企業は、次々に立ち上がる。

 イーロン・マスクが自分の子供の胚の遺伝子チェックをしたとされるオーキッド社や、ジェノミック・プリディクション社もまた、DNAから子供の特徴や病気リスクを予測し、親が好きな胚を選べる「遺伝子スクリーニングキット」を販売中だ。

・PGT-A(染色体異常): ダウン症などの染色体数の異常をチェック(一般的なもの)。

・PGT-M(単一遺伝子疾患): 特定の遺伝病がないかチェック。

・PGT-P(多遺伝子リスク): 心臓病や糖尿病、がんなどの病気リスクだけでなく、「推定IQ」や「身長」「教育達成度」などの項目をスコア化し、「最も優秀な受精卵」をランク付けしてくれるサービス。

 日本では、染色体をチェックするPGT-Aは一部使えるものの、身長や知能を選別するPGT-Pは倫理的な観点から認められていない。

 だがグローバル化した今の世の中、この欲望はお金で買える。

 NG社のような米国のクリニックで実施するための費用に、渡航費や滞在費を含め、1000万円ほど支払える経済力があれば、十分可能だろう。

 胚の段階でのDNA分析によって、生まれてくる赤ちゃんの身長や知能を予測できると謳う企業には、投資家たちから巨額の資金が注がれる。PayPal の創業者ピーター・ティールや、仮想通貨大手「コインベース(Coinbase)」のCEOブライアン・アームストロング、世界最大級のSNS「レディット(Reddit)」の共同創業者アレクシス・オハニアン……。

写真はイメージ ©︎AFLO

 彼らはこれが将来とてつもなく大きなリターンに化けることを知っているのだ。

 民間企業は、そこに市場がある限り、走り出したら止まらない。

 そして国家にとってもまた、バイオ技術は将来化ける「巨大な権力」だ。

 制御できない科学と権力が組み合わさった時、その破壊力は核兵器の比ではないだろう。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によると、これらのバイオテクノロジー企業は、国内で禁止されている「遺伝子組み換え赤ちゃん」をつくるために、ホンジュラスやUAEのような規制のゆるい国々で、秘密裏に実験している。

 当局の規制や監督下にある学術機関ではなく、規制に縛られない業界の資金でどんどん進められているのだ。