スタンフォード大学生物学センターのハンク・グリーリイ所長は、こんな懸念を口にする。

「これは優れたSFの筋書きだ。すなわち、富裕層が遺伝的に優れた階級を作り出し、それが支配者になり、残りは労働者階級となる」

 これが単なる金儲けのためなら、倫理的に規制すべきだろう。

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 だが遺伝子選別が、子供に最良の条件を与えてやりたい親心によるものや、女性の身体的負担からの解放を目指す手段、高速で進化するAIから〈人類を救うプロジェクト〉だとしたら、どうだろう?

人工子宮で女性たちを自由に!

 シリコンバレーで起業するコリンズ夫妻は、知能が高い人々の子供を増やすことが、人類の文明を救う方法「プロナタリズム(出生主義)」だと信じている。

 妻のシモーヌはこの考えに沿って、28歳の時に体外受精を実行、その段階で遺伝子検査をし、複数の受精卵の中から、将来の「推定IQ」が最も高く、精神疾患や肥満や心臓病などの病気リスクが最も低い数値を出した「Aランク」の受精卵を確保した。

 感情や愛着を一切挟まず、「ポリジェニック・スコアリング(多遺伝子スコア)」の数値のみで、理性的に判断したという。

 だが、この受精卵がすぐに使われることはなかった。

 夫妻にとって、20代から30代半ばまでの10年間は、自分たちの事業を軌道に乗せ、シリコンバレーでの安定した地位と潤沢な資産を形成する重要期間だからだ。

 シモーヌは、20代の最もエネルギーに満ちた時間を、女性のパフォーマンスを著しく下げる〈妊娠〉の犠牲にする気は、さらさらなかった。

 それよりも、10年間ビジネス拡大に全力を注ぎ、子供に最高の環境を与えられる経済力を手に入れたタイミングで〈出産〉というタスクをこなす方が、遥かに効率がいい。

 10年経てば、生まれてくる子供の病気や知能を予測する遺伝子スコアリング技術も、さらに大きく進んでいるはずだ。

 女性の身体への負担を減らし、より効率的に出産するための「人工子宮」も商品化が近い。2017年にフィラデルフィアの小児病院が、羊の胎児を人工子宮の中で4週間成長させることに成功し、人間での臨床実験に向けて準備を進めている。中国では、これが少子化解決の糸口として注目が集まっているという。