マイケルの十八番となるイリュージョン演出がお目見え

映画『Michael/マイケル』で再現されたライブ・シーン。ジャファー・ジャクソンの動きは、あのときのマイケルを彷彿とさせる。®, ™ & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 前半、「ハートブレイク・ホテル」では、ステージ中央に降りてきた幕に、マイケルの巨大なシルエットが浮かび上がる。マイケルがピタリと止まるパフォーマンスに、観客は絶叫する。動いていても、止まっていても人間離れした動きが観るものを圧倒するのだ。

 個人的な前半のハイライトは、「帰ってほしいの」「小さな経験」「アイル・ビー・ゼア」と続いたジャクソン5メドレーである。このパートには、ソウルシンガー・マイケルの原初的な魅力が詰まっていたように思う。ことに「アイル・ビー・ゼア」での苦悩するパフォーマンスは、女性ファンのハートを揺らしたが、男である筆者もキュンキュンさせる官能性に溢れていた。

 靴音が響き、スキャットでスタートしたのは「ロック・ウィズ・ユー」。ディスコ調のこの曲は、日本人にも乗りやすいものがある。中盤は主にモータウン流のソウル・ミュージックを体現するパートだった。

ADVERTISEMENT

 そして、「ワーキング・デイ・アンド・ナイト」の最後、ステージ上方に立ったマイケルに銀色の幕が被せられると、ほんの十数秒後に、ステージの全く反対側のクレーン上に登場した。マイケルを乗せたクレーンはそのままアリーナに迫り出してきて、これ以上ない熱狂の中、「今夜はビート・イット」がスタートする。

 このイリュージョン演出はその後、だんだんと派手になり、93年のスーパーボウルのハーフタイムショーでは、大型ビジョンを用いたトリッキーな演出で話題を呼んだ。それに比べると(今思えばだが)シンプルなパフォーマンスだったが、この時は十分驚いたのだ。

 そして「今夜はビート・イット」の終盤では、MVと同じく映画『ウエスト・サイド物語』(61年)風のダンスが感動的だった。フレッド・アステアを尊敬し、ハリウッド・ミュージカルの楽しさを継承してくれたのもマイケルだったなあ……と振り返って思う。

『BAD』のツアーなのに、「BAD」を観られるのはレアだった?

アルバム『バッド』の制作に追われていたため、「BAD WORLD TOUR」の皮切りとなった1987年の日本公演では、『バッド』の曲があまりかからなかったという矛盾が起きた。©Getty Images

 続く「ビリー・ジーン」で、ムーンウォークを存分に堪能していると、再び床が持ち上がり強力な照明の中で歌う「シェイク・ユア・ボディ」でムーンウォークをはじめ、さまざまなダンスを盛り込み、さらにコール&レスポンスで観客を煽りながら、実にこの曲だけで10分以上のパフォーマンスを披露してくれた。

 アンコール1発目は、お待ちかねの「スリラー」。トレードマークのひとつである赤ジャンパー姿のマイケルが、ダンサーと一緒にゾンビダンスを披露。ツアー後半、88年の公演では「スリラー」は本編中盤のハイライトに組み込まれており、そのときのほうが完成形に近いパフォーマンスだったが、そのぶん、87年バージョンではまだ荒削りでライブ感の残るステージングだった。