アーティストとして、マイケルは何度も世界を変えた。デビュー以来、人々を熱狂させた無数のパフォーマンスの中から、歴史の変換点ともいうべき出来事5つを解説する。
11歳の神童あらわる。「ジャクソン5」デビュー
革命は、知らぬ間に成し遂げられる。1970年のシングル「ABC」がビートルズの「レット・イット・ビー」に代わり全米総合チャートで1位に輝いた。「黒人であることを誇れ!」と叫んだジェイムス・ブラウンや、「立ち上がれ!」と煽ったスライ・ストーンらを跳ね返してきた人種とジャンルの壁。それを他愛のないラブソングがたやすく乗り越えたのである。マイケル少年の異才ぶりは明白だった。ボーカルの素早い立ち上がり、リズムのしなり、そして音楽全体が醸すスピード感。ロックの王たるビートルズは、まばゆい身体性によって完敗を喫したのである。だが、ジャクソン5は高らかに権力の転覆を宣言したわけではない。豊かなメロディとハーモニーを持つポップスで、聴衆の懐に入り込んだのだ。「帰ってほしいの」や「アイル・ビー・ゼア」がスタンダードとなったことは、平和裏の禅譲を証明している。あたかも、手際のよい犯行(スムーズ・クリミナル)を予告していたかのごとく。
まさに“型破り”の『オフ・ザ・ウォール』リリース
ジャクソン5の革命で「神童」となったマイケル。しかしその称号が窮屈になると、成長ではなく完全なる変容を追求した。プロデューサーにクインシー・ジョーンズを迎えた本作で、マイケルはソングライターとサウンドクリエイターとしての才能も示した。後に自身が語った作曲法はあまりにもユニークだ。リズムから始まり、ホーンセクション、ストリングスに至るまでの全てを口ずさんで伝えるのである。脳内で積み上げたビートのレイヤーからハーモニーやメロディが派生していくというのだ。「今夜はドント・ストップ」や「ワーキング・デイ・アンド・ナイト」を聞けば、マイケルにしか解けない複雑な方程式の存在がうかがえるだろう。楽器演奏や譜面を記すのが技術的な作曲だとすれば、マイケルがしていたことは音楽の設計図をプレゼンする建築思想的な作曲である。後の記録的な大成功を思えば、ジャブ程度に過ぎない。それでも本作はリスナーの脳を確実に揺らしたのである。



