実際、『BAD』のアルバム制作で多忙だったマイケルは、このツアーの準備期間がなく、前半戦のメニューは3年前に行われたジャクソンズの「ヴィクトリー・ツアー」の内容をベースにしていたという話も後で知ったことなので、このセットリストでも筆者含め日本の観客は十分に満足だった。
最後の最後、ようやく最新作『BAD』から「キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」と「BAD」の2曲を披露。アンコールで2曲だけ出してきたのは、前述の通りの事情で、『BAD』の曲を演出に組み込めなかったからだが、実のところこの87年ツアーの「BAD」が、レアだったことを後々に知ることになる。ツアーの後半で披露される「BAD」は、リップシンクだったそうで、ツアー前半でのパフォーマンスは貴重な「生歌」だったのだ。実際、東京ドームで観た際も、それがリップシンクだったかは、残念ながら覚えていないのだが……。
人間「マイケル」を感じることができた横浜スタジアム
ツアー後半戦の88年12月の東京ドーム公演は、密閉された会場での鑑賞ということもあってか、確かにこちらの方がショーとしての完成度が高かった。これも後に知ったことだが、ダンスの精度やダイナミックさもツアーの前半と後半では全く違っていたのだ。前半戦も十分衝撃的だったが、パフォーマンスとしてはやや古典的で、ラフだが自由度の高いダンスだった。後半に行くほどダンスは精緻に作り込まれ、磨きがかかっていき、より人間離れしたアクトに変貌していたのである。
だが、ライブ感という意味では87年の前半戦に軍配があがる。野外会場の開放感と、歌いながらのダンスという前提のもとに組まれたパフォーマンスは、これもまた貴重なものだった。コンディションも最高、声もよく出ていて、どれだけハードに踊り続けても息が上がらないのだ。その姿は、ギリギリ人間臭さの残るパフォーマンスだったと言えるだろう。『BAD WORLD TOUR』の後半以降、マイケルは超人的なダンスを見せる人間離れした存在になっていくが、筆者が観たこの日のライブは、あのスズキ「ラブ」のコマーシャルで見せてくれたような、キュートなスターの面影を感じさせる魅力的なステージだった。
出会いの曲の記憶は超えられない、とよく言われるが、それはライブも同じなのだ。



