国立大学の名誉教授として、長年教壇に立ち続けてきた髙倉良一氏(70)。知性の最高峰にいたはずの彼が、SNSで出会った見知らぬ美女の言葉に溺れ、総額925万円を騙し取られる事態に陥った。

「兄さんは優秀」と自尊心を巧妙にハックされ、自ら破滅の檻へ入っていく姿を、高倉良一の新刊『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』(さくら舎)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

◆◆◆

ADVERTISEMENT

ロマンス詐欺に騙された男の「恥の記録」

 これから見せるのは、私と「愛子」と名乗る女が交わした、LINEのやり取りの記録だ。言い換えれば、私の恥の記録でもある。

 拙い日本語で書かれた愛子の甘い言葉と、それに舞い上がる間抜けな返事――ああ、なんと愚かしいことか。

 すべては5月5日のメッセージから始まった。

「はい、一緒に新しい人生を始めましょう。伯父と資産管理を勉強したばかりで、私は今の楽しい気持ちを分かち合いたくて待ちきれませんでした。さっきの勉強で、私は5191.5ドルの利益を得ましたよ。とても楽しかったです。きっと髙倉さんがもたらしてくれた幸運ですね💕💕💕」

“幸運”という言葉が妙に耳に残った。定年退職後のだらりとした時間、社会から忘れられたような感覚に麻痺していた私には、あまりに甘い響きだった。

 女はたたみかける。

「愛子がさっき見てみたら、約80万円に両替できることがわかりましたよ。今、日本の経済はあまりよくありません。政府も投資を奨励しています。髙倉さんも投資に参加しましたか?」

 80万円。その具体的な数字が、渇ききった私の心にじわりと染みた。退職金はあっても減る一方だ。

 毎朝、通帳の残高を確認するたびに、見えない不安が胸を締めつける。そんな生活の中に突然現れた、80万円という響き。私は心を動かされていた。いや、欲望を刺激されたのだ。今、冷静に振り返れば、この時点で逃げるチャンスは三度あった。

 にもかかわらず、私はすべてを見なかったことにした。女は私の過去の経歴を知った上で、計算ずくの言葉を選んでいたのだろう。

「兄さんは優秀な方だ。知識の宝庫ですね」