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「これだけ働いて賃金が上がらない日本で良いのか」……安倍と石破の言葉に見る“総裁選の論点”

「10年間で個人所得を3~5割伸ばしていく」 それが簡単にできれば世話はないのだが……

2018/09/15
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「アベノミクス」はトリクルダウンか否か

石破茂 元幹事長
「これだけ働いて賃金が上がらない、そんな日本であって良いと私は思いません」

THE PAGE 9月10日

安倍晋三 首相
「トリクルダウンの政策だという趣旨の話をいただいたが、私はそんなことを一度も言ったことはない」

産経ニュース 9月14日

 14日午前に行われた初めての公開討論会では、石破氏が安倍首相への批判姿勢を鮮明にした。10日の演説会で「私がやりたいのは経済の再生であります。その核は地方創生であります」「これだけ働いて賃金が上がらない、そんな日本であって良いと私は思いません」と語った石破氏は、公開討論会で「東京や大企業の成長の果実がやがて地方や中小企業に波及するという考え方を私はとっていない」(産経ニュース 9月14日)と安倍政権の経済政策を批判。「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」にトリクルダウンについての記述があることに「私はやや違和感を覚えている」と語った。

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 トリクルダウンとは「富裕層や大企業を豊かにすると、富が国民全体にしたたり落ち(=トリクルダウン)、経済が成長する」という仮説のこと。安倍首相の経済ブレーンを務める経済学者の浜田宏一内閣官房参与は「アベノミクスの第1期については、トリクルダウンであるのは事実である」と発言していた(現代ビジネス 2014年9月12日)。また、経済再生担当大臣時代の甘利明氏も「トリクルダウンを起こさなきゃいけない」と発言している(GLOBIS 知見録 2014年11月11日)。

西村康稔内閣府副大臣(当時) ©文藝春秋

 その後、安倍首相は国会で「我々が行っている政策とは違う」と発言して国民を驚かせたが(毎日新聞 2015年2月3日)、同年1月29日に行われた経済シンポジウムでは西村康稔内閣府副大臣(当時)が「トリクルダウンの試み」などについて説明していた(日刊ゲンダイDIGITAL 2015年1月30日)。浜田氏、甘利氏、西村氏は現在も安倍首相と近しい存在だ。そんな中で「一度も言ったことはない」というのは明らかに言い過ぎだろう。

石破氏「10年間で個人所得を3~5割伸ばしていく」は可能か

安倍晋三 首相
「来年の消費税率の引き上げについては、予定通り引き上げていきたい」

産経ニュース 9月14日

石破茂 元幹事長
「消費税を上げて社会保障の水準を下げようとは考えない。消費税を上げてもやっていける経済を作る」

朝日新聞デジタル 9月14日

 10日の演説会で「まっとうな経済を取り戻せた」とアピールした安倍首相だが、来年10月に予定されている消費税10%への引き上げを実施することを明言した。

 14日の公開討論会でも安倍首相は重ねて消費税増税を強調した。「前回消費税を3%引き上げた後、消費が相当落ち込んだ。落ち込んだのみならず、経済の成長についてもこの角度が下がってしまったというところに私たちは注目しています」と語った上で、「なるべく大きな反動減につながらないようなきめ細かな対応をしていきたいと考えています」と語っているが、本当に対応しきれるのだろうか?

 一方、石破氏も消費税増税について「今度の先送りはあってはいけない」と主張していたが(産経ニュース 8月25日)、公開討論会では「大切なのは物価上昇ではなく所得増だ」と指摘し、「10年間で個人所得を3~5割伸ばしていく」という方針を示した。それが簡単にできれば世話はないのだが……。