左派が弱体化する時代に
――リフォームUKのような右派ポピュリズム政党が勢いを増し、いま世界的に左派が弱体化している現状をどうご覧になっていますか。
ブレイディ 第1期トランプ政権の頃は、トランプ支持者を「ポピュリストに騙された無学な人たち」と見なして嘆いていた左派ですが、中には、これを深刻に捉えて反省する向きもありました。前著『他者の靴を履く』では「意見の異なる相手を理解する能力」エンパシーについて掘り下げましたが、当時はまさに「エンパシーを働かせられなかった左派が失敗した」「自分たちには理解できないと思えるトランプ支持者たちの靴も履いてみよう」というムードがありました。
ところがトランプの第2期になって、左派の多くは「もうしょうがない」とどこか諦めてしまった。左派の間でも、「だから左派は駄目なんだ」「もう復活の気運はない」と内輪の欠点ばかりあげつらって、誰が最も悪かったのかを探す“大総括会”をはじめてしまったのです。
イギリスでは二大政党制が崩壊し、五大政党制の時代が始まったと言われ、「駄目になった労働党なんてぶっ壊し、緑の党を中心にゼロからつくり直したほうがいい」という加速主義的な意見を口にする左派論客もいます。でも、緑の党が政権を取れるわけではないのもみんなわかっている。ということは、リフォームUK政権の誕生もやむなしということですよね。これには、私は移民の当事者なので同意できません。
対岸の論壇から「左派が良くない」と言うのは楽ですが、そう言いながら「しょうがないよね」と排外主義的な右派政党の台頭を黙視していたら、実際にどんどん権利を奪われて、最終的に追放されるのは移民です。
移民の「合法と不法の線引き」は政治的に変えられる
ブレイディ もしも予想されている通りにリフォームUKが政権をとってリマイグレーションを始めたら、その巻き添えを食うのは、長年この国に住んで、真面目に働いて、税金も年金も納めてきた移民たちです。
すでにリフォームUKは、永住権を取っている移民からもそれを剥奪する計画を語っています。そうなったら、わが家も含め、一家離散の危機に直面する家庭は少なくないでしょう。英国籍の子どもたちから、外国から来たお父さんやお母さんがいなくなるということです。外国から来た友達や、お世話になっている学校の先生なども。
「不法移民をみんな追い出せ」と言うのは当然だという人も多いですが、合法と不法の線引きは政治的にいつでも変えることができますから、移民に憎悪が向けられるときは、今日は合法だった移民が、明日には不法になる可能性がある。私は30年間イギリスに移民として住んで、今ほどそれを切実に感じていることはありません。
英国ではここのところ、毎年夏になると反移民暴動が各地で勃発しますが、今年のベルファストは特にひどい状況でした。ある難民が殺人未遂事件を起こしたのをきっかけに暴動が起きて、抗議者たちが一軒一軒「移民が住んでいる」と疑った家を回って脅迫したり、NHS(イギリスの国民保健サービス)の病院で長年看護師をしているアフリカ出身の女性が後をつけ回されて脅されたりしています。自分たちの家族や友人を病院でケアしてくれている看護師に何をしているのでしょうか。

