――そんなに多様性を推奨していたのに?
ブレイディ それが今やグローバリゼーションは失敗し、反動として世界的に右傾化し、当のブレアはトランプと手を取り合って、ガザをリゾート化しようとまでしている。今の情勢に合わせて、ひたすら「最適化」して権力をとろうとする姿勢は、ただ急進的としか言いようがない。
でもブレア政権下であれだけ「移民のみなさん来て働いてください。あなたたちはこの国の多様性を推進していく人材です」と移民を歓迎しておいて、今さら母国に帰れと言われても、移民は人間ですから、結婚したり、子どもを産み育てたりして、コミュニティの中に根を張って生きています。
「私たちは生きた人間だ、移民はあなたたちの政治のおもちゃじゃない」と言いたくなります。
「ラディカルな日和見主義」が生む“道徳の空白地帯”
――まさに、人類学者デヴィッド・グレーバーが批判した「極中」と「右派詐欺師」の共存関係がこの奇っ怪な状況をつくり出していますね。
ブレイディ 本当にその通りで、「極中と右派詐欺師」の二大勢力の共存関係の下では、政治的ルッキズム、実際どうかよりも「どんなイメージか」で社会が動くことを本書では掘り下げました。
極中は一見、多様性を推進する立場をとりつつ、実際には移民を経済発展に必要な駒としてしか見ていなかったわけですし、右派詐欺師は労働者の味方を演じて反エリート感情を煽動しますが、当の自分たちがエリートであり、地味な労働問題などに関心はありません。そしてどちらも、人種・ジェンダーなどのアイデンティティ・ポリティクスを巧みに利用する。
極中の「ラディカルな日和見主義」を突き詰めていった先に、道徳の空白地帯が生じ、極右ファシズムへの道が準備されている現状を私たちは目の当たりにしているのではないでしょうか。いまの世界をあるがままに受け入れて、「ただ最適化して利を得る」極中の政治は、抵抗勢力どころか、補完する勢力になってしまっている。
行き過ぎたグローバリゼーションへの反動が世界的に起き、移民や外国人への憎悪が政治的に利用されている今、私たちは立ち止まってその正体を見極め、抵抗しなくてはなりません。いま英国で起きていることは、すぐそこにある日本の姿かも知れません。
移民や外国人を排斥する社会は、今度は自国の弱者やマイノリティにその刃を向けることは歴史が証明しています。イギリスの現状を書いた本書が、立ち止まって考える契機となることを心から願ってやみません。
INFORMATION
『それはどこでも起こり得る』刊行記念
ブレイディみかこ×eri
「“壊れゆく世界”で声を上げる」
8月25日19時~ 代官山蔦屋書店にて
詳細 https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/55275-1706470625.html