『アンコの丸かじり』(東海林さだお 著)

 「丸かじりシリーズ」(連載時は『あれも食いたい これも食いたい』)の最終巻。

 私はすべてを読んでいるような熱心な読者ではないが、本棚の東海林さんコーナーには、ざっと10冊ほどの丸かじりシリーズやその傑作選が並んでいる。

 帯に「追悼」の文字。

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 寂しい。

 が、寂しい気持ちはしまっておいて、いつものように気楽に読むことにした。

『アンコの丸かじり』というタイトルどおり、アンコがメインテーマの回が3話ある。42話収録のうち、スイーツ回は8話。

 東海林さんがそんなに甘党だった印象はないけど……と思い、前作『カレーライスの丸かじり』を購入して読んでみたら、62話収録中、スイーツ回13話。

 けっこう多い。甘いもの好きといっていい回数だ。

 念のため、文庫版に解説を書かせていただいた、シリーズ26巻『パイナップルの丸かじり』を引っぱり出して数えたら、35話収録のうち、スイーツ回は3話にすぎず、それほど甘いもの好きな印象はない。

 ……わかった。

『パイナップル~』は2007年刊。『カレーライス~』は2024年刊。

 東海林さんは2015年に大病され、何度か手術を受けられたと聞く。それが理由ではないだろうか。

 大好きなビールがノンアルコールビールにかわり、心の隙間を埋めるものとして甘いものが増えていった……ということのような気がする。

『アンコの丸かじり』の中の飲酒回は1話だけ。居酒屋でのビールと枝豆について書いておられる。

 だが、すでに足を向けなくなった飲み屋や、飲まなくなったビールへの懐旧の話なのかといえば、そんなしめっぽい要素はなく、あいかわらずの「同行者を気にしつつ、何個入りの枝豆をとるか」という心の動きに対する考察のようなものが繰り広げられる。

 酒だけではなく、油ものや肉や、外食のエピソードも少なめだ。

 シリーズの常連ともいえる、梅干し、目刺し、納豆など地味ネタの追求。

 そして丸ごとのスイカや、少年時代にヤカンの口から飲んで親に叱られた水のような「昔の日本」的なものが、それほど湿っぽくなく語られている。

 最終話は、おせち料理の酢ダコから始まって、タコの話である。

「海は魚たちにとっては確かに棲みよい」

 という一文には、笑ってしまった。

 それは、そうだろう。

 東海林さんも「当たり前だなこれ」と苦笑しながら書いたんじゃないだろうか、と思わせる、実にショージ君らしいどうでもよさがあり、笑いながらしんみりした。

 これから海を見るたびに、この一文を心の中で復唱する気がしている。

(『オール讀物』7・8月号に追悼マンガ『聖地のかけそば』も寄稿しております)

しょうじさだお/1937年、東京都生まれ。漫画家、エッセイスト。早稲田大学露文科中退。70年、『タンマ君』、『新漫画文学全集』で文藝春秋漫画賞、95年『ブタの丸かじり』で講談社エッセイ賞。2000年、紫綬褒章受章。11年、旭日小綬章受章。本年4月5日永眠。享年88。

よしだせんしゃ/1963年、岩手県出身。85年、漫画家デビュー。現在ビッグコミックオリジナルで『親GoGoGo』連載中。

アンコの丸かじり (丸かじりシリーズ48)

東海林 さだお

朝日新聞出版

2026年5月20日 発売