『タンマ君』などの漫画、『丸かじり』シリーズなどのエッセイで知られる東海林さだお氏が4月5日、88歳で死去した。40年来の親交があった作家の椎名誠氏は、その出会いと“ショージ君”の唯一無二の魅力について「文藝春秋」2025年8月号に寄稿していた。その冒頭を一部紹介します。

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東海林さだおの印象的な一言

 東海林さんの大ファンだったので、自分がモノカキになるとすぐに文藝春秋の東海林さんの担当編集者に頼んでご本人にお目にかかった。今から40年ぐらい前のことだ。仕事とはまったく関係がなかったのでレストランでビールのみつつ、という段取りになった。ファンといっても若い女の子ではないので、東海林さんはつまらなそうな顔をして黙って座っていた。なんの用件もないのだから面会を求められたほうはたしかにつまらなかったでしょうなあ。間に立ってくれた編集者がそれに気づいたらしくとにかくビールを飲みましょう、となった。

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4月5日、88歳で死去した東海林さだお氏 Ⓒ文藝春秋

 頼めばビールはすぐに出てきたけれど、互いの味の好みがわからないのでツマミはすぐには決められない。東海林さんはさらに黙っていたがやはりつまらなそうだった。正直なひとなのだ。ぼくは焦り、メニューを見つめて緊張していた。何を頼んでいいのかわからないのでメニューのいちばん端から10センチぐらいのところまで示し「ここからここまでを下さい」などとウェイトレスに頼んだ。

 東海林さんはそこではじめて少し気を許してくれた感じになり「ツマミを寸法で注文するのはなかなかいいね」と言った。

自宅でトレーニングする東海林氏 Ⓒ文藝春秋

 このオホメの言葉に励まされ、以来東海林さんとは何度もお目にかかり、いろんな話を聞き、たくさんビールを飲みプハーッなどと大きな吐息をついては喜んでいた。これまで店はかわれどツマミはメニューの幅にすると10メートルぐらいは食ってきたような気がする。

東海林氏(左)と椎名氏 Ⓒ文藝春秋