夢枕獏「陰陽師」シリーズの35周年を記念する『「陰陽師」の世界』特集がオール讀物2022年8月号にて組まれ、小説家による「陰陽師」トリビュート小説競作がなされた。この企画に寄せられた武川佑の短編、「遠輪廻」の衝撃は大きかった。なにせ、主人公が戦国時代のキリシタン陰陽師なのである! 初めて読んだとき、こんなのありか、と評者が呟いたのはここだけの話である。しかし、飛び道具な設定なのに地に足が付いており「陰陽師」のトリビュートとしてこれ以上ないという、あまりに鮮やかな作品であった(「遠輪廻」は『妖異幻怪 陰陽師・安倍晴明トリビュート』(文春文庫)に収録されているので興味ある向きはチェックされたし)。この「遠輪廻」に登場するキリシタン陰陽師、賀茂在昌を主人公、あるいは狂言回しに据えた伝奇連作短編集が本作である。
出し抜けで恐縮だが、評者はバディものが大好きである。否、愛している。世の中で最も美しい関係性の一つと主張して憚らない。と、いきなり自身の性癖(誤用)を暴露したのは、評者が本作のバディに大盛り上がりしたからに他ならない。本作は先に紹介したキリシタン陰陽師の賀茂在昌と、長岡藤孝(後の細川幽斎)のバディものの側面があるのだが、この二人の関係性が麗しいのだ。
バディものは、二人が正反対の属性を有していると好ましい。本作では、在昌は公家社会に、藤孝は武家社会に身を置いているという対比がある。また、在昌は理論派で、藤孝は感覚派として描かれている。二者は意図的に色分けされているのだ。
その一方で、バディ関係にある二人は根っこで繋がっていて欲しい。そんな読者(=業の深い評者)の声にも本作は応えている。物語が進行するにつれ、在昌も藤孝も、自身の属する社会のはみ出し者であることが判明する。魂の奥底で二人が結びつく説得力が用意されているのだ。
バディ小説としてだけではなく、歴史小説としても美しいストーリーラインを描いている。陰陽師の呪、和歌といった“一芸”を有する在昌、藤孝コンビは、人の王、織田信長に関わり、歴史の目撃者、プレーヤーとなる。ために、よく知られた信長の事績を、公家社会や公家文化から戦国の世を照射し再構成する構造となっているのである。普段戦国小説を読み漁っている人にも清新に映るはずだ。
そしてクライマックス、バディ小説、歴史小説それぞれの糸が絡まり合った形で同時に立ち現れ、在昌たちが一つの結び目を解くことで物語のすべてに解決がもたらされる運びにも、知恵の輪を解いたかのような爽快感がある。在昌と藤孝の行く末を追う読者にも、呪に揺るがされる織田政権の果てを読む読者にも、あるいは両方を楽しむ読者にも大満足の小説なのだ。
たけかわゆう/1981年、神奈川県生まれ。2016年、「鬼惑い」で「決戦!小説大賞」奨励賞受賞。21年『千里をゆけ』で日本歴史時代作家協会賞作品賞、25年『円かなる大地』で大藪春彦賞を受賞。
やつやぐるま/1986年、東京都生まれ。2025年『二月二十六日のサクリファイス』で中山義秀文学賞受賞。近刊に『不埒なり利家』。
