7月18日、日本未公開の台湾映画の名作・話題作を紹介する「台湾文化センター 台湾映画上映会2026」の第5回が中央大学多摩キャンパス(東京・八王子市)で開催された。今回上映されたのは、1960~70年代の台湾映画界を牽引した白景瑞(バイ・ジンルイ)監督による『今夜は帰らない デジタル・リマスター版』(1969)。上映後には、本上映会のキュレーターであり映画監督のリム・カーワイ氏と、ゲストとして映画監督で東京藝術大学名誉教授の筒井武文氏が登壇した。
『今夜は帰らない デジタル・リマスター版』
台北のあるアパートの3つの家で、今夜それぞれ家に帰らない人物がいる。父親に反発して飛び出した受験生。妻に別れを告げ、元恋人のもとに向かう男。子供たちと献身的な妻との生活に息苦しさを感じ、残業と偽って帰らない男。長い一夜の中で、三つの物語はときに交差する。夜明けまでに彼らは家に帰るのか、帰らないのか――。
監督: バイ・ジンルイ/出演:ジェン・チェン、 レイ・ミン、ウー・ジアチー、 ニウ・ファンユー/1969年/台湾/104分/1969年アジア太平洋映画祭 最優秀脚本賞/©Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rigths reserved.
◆◆◆
イタリア仕込みのモダンな群像劇
リム・カーワイ監督(以下、リム) バイ・ジンルイ監督は、日本ではほとんど紹介されてきませんでした。唯一上映されたのは『大輪廻』(1983)というオムニバス映画で、キン・フー、リー・シンと並んで最後の1話の演出を担当しました。彼のデビュー作のリマスター版を映画祭で観て驚き、ぜひ日本でも紹介したいと思ったわけですが、調べてみると彼はイタリアに留学経験があった。イタリア喜劇のテンポの良さとモダンな色彩感覚を台湾映画に持ち込んだのではないかと思います。
筒井武文監督(以下、筒井) かなり変わった映画だと思いました。要素が多すぎて圧倒されました。同じアパートに住む3つの家族の物語が同時進行で詰め込まれていて、まるで3本分の映画を1本にしたようです。台湾映画でもあまり観たことがない作品だと思います。
リム すごく変わった映画ですよね。終わったときに会場から拍手が起きたので、皆さん楽しんでいただけたと思いますが。
筒井 基本的にはウェルメイドな娯楽映画ですよね。登場する3家族がそれぞれ軋轢を抱え、登場人物たちがみんな「今夜は家に帰らない」という状況になる。言ってみれば社会派コメディ映画でしょうか。
アパートの一番上の階に住む家族は、大学受験に失敗して浪人中の娘がいる。キリスト教にのめり込む厳格な父親は、娘に「悪魔の誘惑に屈するな」と説教し、何ヶ月も家から出さない。
真ん中の階には、アメリカから帰国したかつての婚約者が現れ、出張と偽ってホテルで一晩を共にするという「不倫劇」を繰り広げる男がいる。そして下の階には、3人の幼い息子がいる一家が。長男と次男が鉄道模型を取り合って大げんかをし、三男はおじいちゃんに馬乗りになって遊んでいる。会社で経理を担当している気弱な父親は、騒々しい家族から逃れるようにトイレに籠もり新聞を読んでやり過ごそうとしている。妻はそんな夫に腹を立て、常に怒鳴り散らしているというカオス状態だ。


