360度回転するカメラ

リム カメラワークがとても面白いですね。たとえば360度パンするところがありますが、1969年でこれをやっているのは珍しいと思います。

筒井 普通だとカメラをあまり動かさずに、引きと寄りで構成していくほうが分かりやすいんです。ところがこの映画は、とにかくカメラが動き続ける。単にパンやズームをするだけではなく、カメラ自体が役者の動きに合わせて移動しながら被写体を捉えていく。すごく撮影は大変だったと思います。望遠レンズのショットも多い。望遠を使うとピントが1か所にあたって周りがぼけるため、登場人物を際立たせる効果がありますが、そのためには広い空間がないといけない。だからこの映画はスタジオのセットで、部屋をかなり広く作っているということがわかります。スタジオ撮影の贅沢さを生かしていますね。

『今夜は帰らない デジタル・リマスター版』©Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rigths reserved.

リム ズームイン、ズームアウトも多用していますし、カメラが動き続けるので落ち着かないですね。そこがとても面白いと思います。役者の台詞の言い方などもイタリア映画の影響を感じました。

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筒井 イタリアのコメディのような演出がありましたね。大勢でガヤガヤいいながら台詞を畳みかけていく。同じようにイタリアで学んだ増村保造監督も、こうした演出をしました。

リム バイ・ジンルイ監督は増村監督と同じイタリアの映画機関で学んだんですね。10年以上後輩になりますが。

©台湾映画上映会2026

筒井 映画を単にシナリオに沿って的確に作るのではなくて、どう面白く作るのかということを考えていろいろと実験している感じがしました。画の面白さが目立っています。たとえば夫が不倫をしていると思った妻が、別れの手紙を書くシーン。何度も書き直してそのたびに紙をぐしゃっと丸めて机に投げるのですが、カメラが360度パンをして一周すると、丸めた紙がどっさりと増えている。他にも黒の背景に窓を切り抜いたようなショットがあったり、壁をすり抜けるようにカメラが移動して現実ではあり得ない空間のつながりを見せるなど、セット撮影の自由度を最大限に生かしながら、登場人物の孤独や関係性の変化を、視覚的に巧みに表現しているんです。