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金正恩は“GDP2000億ドルの国のトップ”の誘惑に勝てない

金正恩氏 ©共同通信社

 別の北朝鮮の専門家はこう見立てる。

「今の金正恩委員長にとって、問題は経済です。

 非核化に応じた場合、単純計算すると、市場規模が小さいため20%の経済成長率が10年間ほど続くといわれます。北朝鮮の今のGDPはだいたい300億ドル(韓国は1兆5308億ドル、日本は4兆8721億ドル)といわれますが、これが今のベトナムに肉薄する水準の2000億ドル超と飛躍的に上がるのです。ただし、そうなれば情報も一気に流れ込んでくるでしょうし、人間の欲には切りがないですから、体制を脅かすような勢力がうまれるかもしれない。

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 逆に応じない場合、金正恩委員長は核を持つ軍部を保有することになる一方で、いまや経済全体の20%を占めるともいわれる北朝鮮の闇市場がこれからますます膨れあがることが予想されます。さらに、すでに姿を現わし始めている富裕層などから経済の発展がみられないことへの苛立ちが噴出する可能性があります。制裁がもっとも厳しかった昨年(2017年)の経済成長率はマイナス3.5%(韓国銀行推算)だったことから考えると、制裁が続けば、あと10年でGDPは200億ドルを下回ることになる。

 非核化に応じても応じなくても、北朝鮮では人民の暮らしへの”欲”が膨れ上がる可能性が高まってきていますが、今回の南北首脳会談で、金正恩委員長は文在寅大統領を迎えた際『他の先進国と比べるとわれわれの施設はみすぼらしく、レベルが低い』と話しました。これをレトリックだと否定的に見る人もいますが、ストレートに受け取れば、金正恩委員長の豊かな国のトップになりたいという気持ちが読み取れます。GDP2000億ドルの国のトップという魅力をそう簡単に捨てるとは思いません」

NLL問題を飛び越え、「軍事的な敵対関係の終息」に合意

 韓国では、会談前には、「平和」のフレーズが飛びかい、ソウル市庁舎前に生中継のスクリーン設置や写真で見る南北首脳会談展が開催されるなど、南北最大のイベントとして演出された。

ソウル市庁舎前。「南北首脳会談の成功を願います」と書かれた垂れ幕がかかっている(筆者提供)
市庁舎前のソウル広場。花で象られた、ひとつになった朝鮮半島の前で通りがかった女性が記念撮影をしていた(筆者提供)

 冒頭の記者は言う。

「韓国にとっては、金大中(2000年)、盧武鉉(07年)両元大統領に続く3回目となる今回の会談ですが、第一義は南北平和。最大の焦点は、北朝鮮がこれまで認めてこなかった黄海でのNLL(北方限界線)問題(国連軍が設定した韓国と北朝鮮の軍事境界線。北朝鮮はNLLは無効だと主張している)についてでした。

 NLLを含む海域を『平和水域』にする合意に至ったことも評価できますが、互いに武力行使を絶対に行わない『軍事的な敵対関係の終息』に合意した意味はさらに大きい」