FIFAワールドカップ2026。日本代表は決勝トーナメント1回戦でブラジルに1―2で敗れた。後半アディショナルタイムの劇的決勝弾。歓喜のブラジルベンチで一人、カルロ・アンチェロッティ監督は表情を変えず周囲に落ち着くよう促し、直ちに試合をどう締めるか話し合っていた。勝負は下駄を履くまで分からない。寸分も隙を見せない姿に解説の本田圭佑は、

「百戦錬磨とはこういう事」

 と感服していた。監督として史上初の欧州5大リーグ全制覇、欧州チャンピオンズリーグ(CL)最多5回優勝と圧倒的実績を誇る稀代の名将だが、実は彼は“サッカー史上最大の悲劇”の当事者でもあるのだ。

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 “喜ばない名将”を生んだ一つの要因と思われる伝説の一戦を描いたドキュメンタリーが、『Untold UK:リバプールFC、イスタンブールの奇跡』(ネットフリックスで配信中)だ。それは敗軍の将にとってはあまりに受け入れがたい“悲劇”だった。

©佐々木健一

 2005年5月25日、トルコ・イスタンブールで開かれたCL決勝。アンチェロッティ率いるACミラン対リバプール。前半でミランは3点をリード。サッカーで「3―0」はほぼ勝負が決したと言っても過言ではない点差だ。しかし、そこから“奇跡”が起きる。

 本作はリバプール側の視点で描かれる。リバプール一筋のDFジェイミー・キャラガーが対戦相手に対する当時の心境を吐露する。

「メンバーを見れば笑いが出る。オールスターだから」

 当時のACミランは黄金期を迎えていた。マルディーニ、ピルロ、セードルフ、シェフチェンコ、カカ、クレスポなどスター選手が勢揃い。監督は“ゴッドファーザー”の異名を持つ名将アンチェロッティ。対するリバプールはこの年、主力のマイケル・オーウェンがレアル・マドリードへ移籍し、新監督の下でリーグ成績は5位と奮わず、CL決勝に進めたのは奇跡だった。

「3―0。絶望的だ」

 CL決勝のハーフタイム。リバプールのロッカールームは沈黙に包まれた。

「そして、騒ぎが起きた」

 鬱屈した感情が爆発し、選手同士が喧嘩。監督から交代を告げられシャワーを浴びた選手が再び出場を命じられるなどカオス状態に。

「後半に出るのが怖かった」

 しかし、選手たちがピッチに出ると、会場を埋め尽くすリバプールサポーターが大合唱で彼らを迎えた。

「君は決して一人じゃない」

 大差で負けている時には歌わないはずの応援歌が選手たちを奮い立たせ、反撃が始まる。リーグ戦でも採用していない3バックに急遽システム変更。瞬く間に2点を返し、さらにPK獲得。キッカーはシャビ・アロンソ。これがプロとして初めて任されたPKだったという。シュートはキーパーに弾かれ万事休すかと思いきや、こぼれ球を自ら押し込み、ついに同点。試合はPK戦へもつれ込み、リバプールが優勝を手にした。

 本作は勝者から見た物語だが、敗者の心中は想像を絶する。「3―0」からの痛恨の敗戦は名将の胸に深く刻まれたに違いない。試合後、座り込む日本の選手に手を差し伸べたアンチェロッティは会見でこう述べた。

「最大のチャンスでも謙虚であることが最高の敬意だ」

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『Untold UK:リバプールFC、イスタンブールの奇跡』
ネットフリックスで配信中
https://www.netflix.com/jp/title/81752435