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「苦しい! 息ができない」白人警官に首を絞められ絶命。その瞬間、ハッと目を覚ますと…衝撃の30分!“ループもの”の新たな金字塔

2021/07/21
 

 たった30分の作品が今年のアカデミー賞で大きな話題を集めた。短編実写映画賞を受賞した『隔たる世界の2人』(ネットフリックスで配信中)。サクッと見られるが、内容は重厚でズーンと胸に迫ってくる。

 ベッドで目を覚ます黒人男性のカーター。横には一夜を共にした女性の姿が。しかし、自宅で待つ愛犬が気になる彼は、そそくさと部屋を後にする。マンションを出てふとタバコを咥(くわ)えると、背後から白人警官に声をかけられる。

「タバコか? 違う臭いだ」

 大麻を疑われ、所持品を検査しようとする警官と揉み合いに。応援の警官も駆けつけ、カーターは白人警官に頸動脈をきつく絞められる。

「苦しい! 息ができない」

 この台詞に思わず息を呑む。昨年、白人警官に頸部を圧迫され死亡した黒人男性、ジョージ・フロイド氏の言葉だ。劇中の白人警官は尚も首を絞め続ける。ふと目をやるとカーターはすでに絶命していた。

 その刹那、ハッと目を覚ますカーター。首も異常はない。ベッドの横には、一夜を共にした女性の姿がある。

「ただの悪い夢だ」

 だが、その後の会話や出来事も夢と全く同じ。マンションを出ると再び白人警官から声をかけられ、揉み合いになり、今度は射殺されてしまう。

 再び目を覚ますカーター。横には一夜を共にした女性が。

 そう、この物語は所謂(いわゆる)“ループもの”。ただし、そこにはブラック・ライブズ・マター運動の影響が色濃く反映されている。黒人男性のカーターは無限ループから抜け出すため、ありとあらゆる手立てを尽くす。しかし、ことごとく白人警官に殺されてしまう。窒息死、射殺、自宅に踏み込まれての銃撃……。彼が経験する“死”は、実際に白人警官によって殺された黒人の死をなぞっているのだ。

 ループものは同じ役者やセットで撮影でき、低予算で制作できる。アイデアとテーマがはまれば、短編でもとてつもない名作が生まれるのだ。

INFORMATION

『隔たる世界の2人』
https://www.netflix.com/jp/title/81447229

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