カメラは全てを記録していた――。ほぼ全編、警官のボディカメラ映像で構成したドキュメンタリー映画『パーフェクト・ネイバー:正当防衛法はどこへ向かうのか』(ネットフリックスで配信中)。画質は粗いが、2025年のサンダンス映画祭で監督賞(米国ドキュメンタリー部門)を受賞し、ネットフリックスが約500万ドル(約7億8000万円)で配給権を獲得したことも話題となった。米国では警官の胸元にウェアラブルカメラを装着し、警察活動を映像として記録する取り組みが広く浸透している。証拠保全や透明化が目的で、日本の警察でも試験導入が始まり、2027年度以降は本格導入される見込みだ。これまでも監視カメラ映像と目撃者の証言のみで構成した傑作『バスターミナル 死の真相』(イスラエル・2017年)や車載映像を一部使用したドキュメンタリー作品はあったが、その系譜に今後はボディカメラ映像を使った作品も加わっていくことだろう。

 事件の発端はフロリダ州郊外の住宅地での些細な隣人トラブル。子供の遊び場を巡る諍いで通報があった。

「この人は自宅近くの芝生で皆が遊ぶのを嫌がった。自分の土地と思ってるから」

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 最初の通報は2022年2月25日。通報者は一人暮らしの小太りな中年白人女性、スーザン・ロリンツ。最近越してきた彼女は自宅前の広場でボール遊びをする黒人の子供たちを叱った。その子たちの母親、アジカ・オーウェンズは警官の聞き取りに呆れた様子で答える。

「彼女は『だから黒人は……』とか何とか言って」

 警官は互いの話を聞き、場を収めた。だが、その後もスーザンは通報を繰り返した。

「なぜ彼らは私有地に?」

 しかし、彼女以外の住民から特に苦情はない。たびたび通報を受け、その都度、対応させられる警官たち。

「クソな……」
「サイコ野郎」

 ボディカメラ映像には彼らがウンザリして呟く音声や独り言まで記録されている。一方、スーザンが警察に通報した音声には……。

「私は誰の邪魔もせず静かに暮らす“最高の隣人”よ」

 だが、住民は彼女のことを“カレン”(人種差別的な中年白人女性を指すスラング)と呼び、軋轢は深まった。

 そして2023年6月2日、最悪な事件が起きる。子供が怒鳴られたことに腹を立てたアジカがスーザン宅へ向かい、声を上げながらノックした。その直後、

「バンッ!」

 と乾いた銃声が響いた。スーザンが扉越しにアジカへ向け銃を発砲したのだ。程なくしてアジカは絶命。彼女の子供たちが母親の死を知らされる瞬間までボディカメラ映像は捉えている。

©佐々木健一

 警察へ連行され取り調べを受けるスーザン。その様子も全て映像に記録されている。アジカの死を知らされた瞬間、言葉を失い、うなだれる姿も……。その後、彼女の行動はフロリダ州の正当防衛法に該当するか否かが議論となっていく。

 些細な諍いから取り返しのつかない事態へと発展するまでの一部始終を記録映像で綴った本作。取調室で頑なな態度をとるスーザンの姿やその後の法廷で別人のように変貌した彼女の外見など、最後の最後まで映像の持つ底知れない力や怖さを感じさせる一作である。

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『パーフェクト・ネイバー:正当防衛法はどこへ向かうのか』
https://www.netflix.com/jp/title/82018736