衝撃を受けた。ネットフリックスで配信中のドキュメンタリー映画『本当の僕を教えて』(2019年/イギリス)。あまり知られていない作品だが、紛れもなく世に埋もれさせてはならない逸品だ。出演者はたったの2名。齢54になる一卵性双生児のマーカスとアレックス。彼らの独白と対話を軸に進行するシンプルな構成だ。しかし、一時も目が離せないほど引き込まれる。

 18歳の時、アレックスは交通事故で記憶喪失になる。覚えているのは双子の兄弟、マーカスの存在だけだった。裕福な家庭に生まれたことも、両親のことも、大きな自宅も、身のまわりのこと全てを忘れていた。そこでマーカスは、アレックスの記憶を回復する手助けをする。ガールフレンドや両親との旅行など、楽しい思い出を語って聞かせた。その後、アレックスは徐々に日常生活を取り戻していった。

 だが、実はマーカスはある重大な“秘密”を抱えていた。冒頭、彼はこう語る。

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「20年、沈黙を貫いた。20年もだ。……隠していた」

 約20年前、両親が世を去り、秘密に綻びが見えた時もマーカスは多くを語らなかった。だが、秘密の存在を知ったアレックスは、本当の自分を取り戻すために詳細を打ち明けて欲しいと強く願った。

 本作では、2人がついに秘密を共有する瞬間をカメラにおさめている。その撮影スタイルは独特だ。誰もいない空間を用意し、そこで彼らの独白と対話の全てを撮影している。過去の凄惨な記憶を呼び起こす場に、制作者が介在しない状況設定(演出)を貫いたのだ。そこで初めて語られる“秘密”は、言葉にするのも憚られる衝撃的な内容だ。嗚咽し、秘密を打ち明けたマーカスはカメラに向かって言う。

「この動画を見る人たちには(ある人物)が間違っていることが伝わった。それは力強い心の支えだ」

 秘密は兄弟間だけでなく、観客とも共有される。これは、復讐と再生の物語である。

INFORMATION

『本当の僕を教えて』
https://www.netflix.com/jp/title/80214706