「同じ部屋になる男子生徒の保護者に事情を打ち明けて、了解を得たいと思います。一人でも、光君と同部屋ではいやという保護者がいたら、申し訳ありませんが、校外学習は諦めてください」
私はその言葉を聞いてうっと詰まり、胸が痛くなった。拒否されたら光はどんなに傷つくだろう。もやもやした気持ちを引きずりながら1週間が過ぎた。すべての親からOKが出たと聞き、心底ほっとした。
ほかの男子生徒たちは第二次性徴期に…
2年生になり、クラス替えになった。予期しないことが起きた。いや、予期すべきだったのに、私の頭になかった。クラスの男子生徒たちが次々と第二次性徴を迎える時期に入ったのである。みんなグングン背が伸びて、声が低くなり、喉仏が出てきた。子どもから大人に変わろうとしていた。
光は小学4年生のときに身長が155センチメートルになり、そこからまったく伸びていなかった。クラスの男子の中で、光だけちょっと異質の存在になった。光はそのことを嘆いた。
「父さん、ボクだけ全然体つきが違うんだよ。みんなどんどん大人になっていくんだよ」
「うーん、でもそれはしかたないよね」
光は肌がきれいでニキビもほとんどなかった。小学生のような幼い顔のままだった。
私は心の中で、まさか男性ホルモンの注射を打ちたいなんて言わないよねと呟いていた。私がそれを口にすれば、光がやってみたいと言い出しそうで怖かった。でも同時に、光が男の身体に変身することを望んでいるようにも見えなかった。
もう1人がカミングアウト
また、ちょっと信じられないことが起きた。光とは別のクラスの女子が「自分は性別違和だ」と言い出したのである。保健室登校をしていた子である。その子の家族は学校と話し合いを持ったらしく、それまでは女子の制服で登校していたが、ある日を境に突然、男子になった。本人も「これからは男ってことで!」と明け透けだったので、周囲はみんなその子を受け入れた。その子の周囲にはいつも男子生徒が集まっていた。
私はその話を聞いて、光も改めてカミングアウトした方が楽になれるのではないかという気持ちと、今のまま静かに男として生きていく方が無難なのではという気持ちが交錯した。私は何度も光に問いかけた。
「どう思う、光? みんなに言う?」
「言うのはいや。引かれちゃうかもしれない。このままがいい」
光は暗い表情でその都度そう答えた。何か深く考えているようだったが、光が自分の胸のうちを詳しく語ることはなかった。