※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2026」の本戦出場作品です。おもしろいと思ったら「文春オンライン」文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】滝河あきら 中日ドラゴンズ

大島洋平・堂上剛裕・山内壮馬・谷哲也・中川裕貴(順不同)世代の41歳。名古屋在住。文春野球フレッシュオールスターは、3年連続4回目の出場。白球を追って戦う竜戦士たちに元気をもらいながら、今日も薄給を追って働く竜党サラリーマン。好きな選手は神野純一。

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 私が大学生だった頃、ちょうど落合ドラゴンズの全盛期で、私はドラゴンズファンとして、この世の春を謳歌していた(次の春はいつ来るのかな…)。大学3年生になると周りは就職活動を始めていたが、私はそんな気分になれずに、「大学院に進んで、もう少しY先生のそばにいてあげようかな。ドラゴンズの先発ローテを教えてあげられる人、他にいなさそうだし」と考えるようになっていた。

 Y先生というのは、私が所属していた研究室の先生のことである。当時50代の男性教授。名古屋出身でドラゴンズファン。野球に限らずスポーツ、歴史、地理の話が好きで、私はY先生と話すのが楽しかった。Y先生は研究室のメンバーとともに、学食で昼食を一緒にとるのが常で、昼食の終わり際に、Y先生が「今日の先発は?」と私に聞いてくるのがお約束だった。まだ、セ・リーグに予告先発が採用される前の話である。

 私はドラゴンズの先発ローテをきっちりと把握していたので、「今日は川上ですね」、「今日は朝倉だと思います」と答え、Y先生は「よし勝ったな」、「投げてみないとわからんな」などとリアクションをしてくれた。私の先発ローテ予想は、まずまずの精度で当たるということで、Y先生のお気に入りであったようだ。私は研究者としてもドラゴンズファンとしてもY先生を慕いつつ、ゆくゆくは研究職としてメシが食えるようになれたらいいな、というふんわりとした気持ちとともに、大学院への進学を決意したのだった。

©時事通信社

大学院進学後の苦悩

 大学院に進んだ後、ドラゴンズは相変わらず強かったが、私自身、大学院生の本分である研究活動はさっぱり進んでいなかった。何となしに大学院の空気を吸えば、高く飛べるのではないかと思っていたが、そんなに甘いものではなかった。何とか頑張ろうと思いながら過ごしていたが、メキメキと成果を上げていく同輩を見て、如何ともしがたい実力差を感じていたのも確かである。このまま大学に残って博士課程に進んだとして、果たして研究職につけるだろうか、と不安を抱えていた。そんな私を、Y先生は熱心に指導してくださったが、私の存在がY先生の負担になっているのではないか、と密かに落ち込むこともあった。

 大学院に進んで1年が経ち、そろそろ真剣に自分の進路を決めて、身の振り方を考えないといけない時期に、私はあるWeb記事に出会った。それは、セ・リーグで予告先発制度の採用が前向きに検討されているという、飛ばし記事の類のものだった。ただ、当時の私にとって、このWeb記事は、「ああ、これでY先生にとって私の存在価値はなくなるな」と私に思わせるには十分であった。

 研究の議論に全然ついていけず、まともな質疑応答もできないでいた私だったが、Y先生の「今日の先発は?」という問いは、私だけしか答えられないものであった。しかし、セ・リーグが予告先発となれば、そんな質問もされなくなるであろう。今から思えば、研究の道を諦めるきっかけや体のいい言い訳を、無意識的に探し求めていたに違いないのだが、とにかく私は大学院を離れ、一般企業に就職し、会社員として働くことを決意した。