身に沁みた、Y先生の気遣い

「君の研究テーマは興味深かったんだけどな、残念だ」。Y先生は寂しそうだったが、就職を決意した私に優しく気を遣ってくれた。「君とドラゴンズの話をするのは楽しいんだけどな。特に、交流戦でDHをどう使うかを議論した時は盛り上がったな」。そうだった。交流戦で普段と違うDH制でのドラゴンズのスタメンをどうするべきかを話したとき、ものすごく盛り上がったのだった。長時間、周りを置き去りにして。「そんな話も来年からは出来なくなるのか」。Y先生はやっぱり寂しそうだった。私も寂しかった。

 DH制の話になったときにY先生はこんなことを言っていた。「研究の世界にもDH制みたいなものがあってもいいのにな。満遍なく色々できなくても、議論になるとピカイチな人もいるし、論文を書くのは抜群という人もいる」。あれはきっと、研究がうまくいかずにもがいていた私への、Y先生流のフォローだったのではないか。何か一つでも強みがあればいい、と。「じゃあ、DH制があれば、僕も研究の道でやっていけますかね?」と軽口をたたく余裕は、残念ながら当時の私にはなかった。

 就職活動の末に内定を得て、大学院から去ることが決まってからも、Y先生は私を優しく気遣ってくれた。折に触れて、「君は人柄が良いから会社員でもやっていけるぞ」「ここでの勉強もきっと就職して活きてくるぞ」と声をかけてくれた。そのたびに私は、嬉しいやら、もったいないやら、情けないやら、複雑な思いで胸が締め付けられるようであった。

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蘇った思い出と今の思い

 と、ここまでつらつらと思い出話を書いてしまった。なぜこんな話を思い出したかというと、来季からセ・リーグにDH制が導入されるということを知ったからだ。あの時、DH制の話でY先生と盛り上がったな、と思い出したことを皮切りに、当時の記憶が一気に蘇ってきたのだ。

 Y先生、お元気でいらっしゃるだろうか。思い出してしまったからには、近況報告の手紙でも書こうかしら。いや、もう少しドラゴンズが強くなってからにしようかな。

 もし手紙を書くとしたら、何を書こうかな。新卒で入った会社で頑張った話、転職して色々な仕事をした話、結婚して子どもも育てている話、ドラゴンズがあの頃みたいに強くならない話、今年からバンテリンドームにホームランウイングができた話、来年からセ・リーグにDH制が導入される話…。

 それから、あの時は言えなかった軽口も。「研究の世界にDH制があったら、僕でも何かしらで生き残っていけますかね?」

 先生、僕は今、定職に就いていて、人並みに食べていけています。だから、先生、どうか気を遣わずに、明るくこう言ってほしいのです。

「ハハハ、それは無理だな。君、研究では、打撃も守備もうまくないだろ?」と。

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