――日々介護を続ける中で、特につらかったことはなんでしょうか。

麻木 母が入院している時期は病院から電話が鳴るたびに、「何かあったんじゃないか」と胸が締め付けられたことです。「あと何分で来られますか」という連絡を受けるたびに、仕事を途中で切り上げて病院へ向かっていました。

 病室へ着くと、生死の境をさまよう母がいて、その姿を見るたびに、「どうしたら母を守れるんだろう」と、それしか考えられませんでした。そんな生活が約2年間続きました。

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――その経験を通して、介護に対する考え方にも変化がありましたか。

麻木 介護は、一人だけで抱え込むものではないと痛感しました。当時は「私が頑張らなきゃ」と思っていましたが、一人でやれることには限界があり、頑張れば頑張るほど、自分も母も苦しくなってしまうことがあるんです。

 今は母も福岡の施設で穏やかに過ごしていて、病状も落ち着いています。最初は施設にお願いすることへの葛藤もありましたが、今は、お互いにとって、この選択が一番良かったんだと思えるようになりました。

©細田忠/文藝春秋

裏方の仕事を経験して気づいたこと

――長い介護の日々を経て、お母さまの病状も落ち着かれたことで、麻木さんご自身も少しずつ日常を取り戻していかれたのですね。

麻木 はい。その後はご縁があって、イベントの裏方のお仕事をさせていただくようになりました。最初は「少しだけ手伝ってみない?」と声を掛けていただいたのがきっかけだったんですが、実際にやってみたら、本当に楽しくて。

 もちろん体力も使いますし、大変なお仕事ではあるんですけど、「私は裏方のお仕事も好きなんだな」と気付かされたんです。今でも時々、運営スタッフとして現場に入り、チェキ撮影のお手伝いをしたり、演者さんへ声を掛けたりすることもあります。

 自分自身も演じる立場を経験してきたからこそ、「今、このタイミングで声を掛けたほうが安心してもらえるかな」とか、「もう少し一人で集中したい時間かな」とか、演者さんの気持ちを考えながら動けるのは、強みなのかなと思っています。

裏方として活躍する麻木さんの姿 本人提供

――実際に裏方のお仕事を経験されて、新たに気づかれたことはありましたか。

麻木 一番驚いたのは、「待ち時間にもちゃんと意味がある」ということです。演者だった頃は、「どうしてこんなに待つんだろう」と思うこともありました。

 でも実際は、その間にもスタッフの皆さんが次の段取りや安全確認をしたり、見えないところで本当にたくさん動いてくださっていたんです。裏方を経験して初めて、「あの待ち時間は、私たちのための時間だったんだ」と気付きました。

 それ以来、スタッフの皆さんへの感謝の気持ちは以前よりずっと強くなり、現場では「ありがとうございます」と伝える回数も自然と増えましたし、表に立つ人は、本当に多くの方に支えられているんだと実感しています。