見上げられているのに、見下ろされている――取材で山本“KID”徳郁に会うたび、いつもそんな不思議な感覚に襲われた。身長は163cmと日本人の平均を下回るが、太い首と異常なまでに盛り上がった肩まわり、そしてタイヤのような密度を感じる隆起した分厚い体。爛々とした好戦的な瞳で見つめられ握手をすると、いつ引っこ抜かれて床に叩きつけられてもおかしくないと思ってしまう。もちろん、そんなことはなくKIDはフランクに優しい笑顔で接してくれるのだが、肉体には素人でも分かるぐらいの凶暴性が潜んでいるように思えた。とにかく実体以上にKIDは大きく見えるのだ。

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「ヤバい、カッコ良すぎる、オレ」

 格闘技マンガ『グラップラー刃牙』の作者である板垣恵介氏は、KIDの鍛え抜かれた肉体を「セクシーを超えて獰猛に見える。スポーツカーやレース用のバイクがカッコいいと思うのと同じように、機能的に研ぎ澄まされている」と語っていた。つまり肉体に説得力があり、言葉を持っている。ゆえにKIDの発言は、多くを語らずとも誰をも魅了する力があった。

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 2006年5月、格闘技イベント『HERO’S』において元五輪代表のレスラーである宮田和幸を跳び膝蹴りにより開始わずか4秒でKOした際、KIDはリング上で「ヤバい、カッコ良すぎる、オレ」と自画自賛をした。とんでもない上から発言だと思うが、衝撃ともいえる試合内容によりこれが見事にハマり、KIDのカリスマ性を高めるに至った。

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 また自ら「格闘技の神様の子……神の子」と言って物議を醸したこともあったが、あのインパクトは今も忘れられない。

 切れのある言葉についてKIDは「ボキャブラリーがないからいつもどうしようかなって。だから短めに」と笑っていたが、その体の中から出てくるような言葉は、彼という存在をより輝かせた。