続いて、伝える力が強い点だ。自身の経営哲学を平易に熱く語る力とも言える。このため、両氏の著書は、ビジネスマンにはとても分かりやすい内容で、何冊もベストセラーとなっている。
三つ目は、「仕事に取り組む姿勢」を重視することだ。賢い社員よりも、心構えが良い社員を評価し、育てることがうまい。永守氏はニデック社員の評価基準を、ニデックの経営哲学の理解度+熱意+能力に置いていた。稲盛氏も「考え方が悪いと結果も必ずマイナスになると説いていた」(京セラOB)という。
神輿として担がれない理由
共通項の多い両氏だが、決定的に違うことがある。稲盛氏は京セラ以外の財界人からも尊敬されていたのに対して、永守氏はニデックの外では、稲盛氏ほどリスペクトされていなかったように見える。
この点について、京都の政財界のフィクサーと言われる、某団体のトップはこう指摘する。
「稲盛氏は人を信じられるようになった結果、京セラ以外の人たちからも神輿を担がれるようになったが、永守氏にそれがないのは、人を信じることができないからではないか」
稲盛氏が神輿として担がれる契機になったのは、1995年に京都商工会議所会頭に就いたことだ。前出の京セラOBは「前任者のワコール創業者の塚本幸一氏に『社名で京都を利用しているのだから、もっと京都のために尽くせ』と言われて会頭職を引き受けた」と語る。
稲盛氏は2010年、当時の鳩山由紀夫首相から依頼され、経営破綻したJALの会長に無報酬で就任し、再建を主導した。稲盛氏は自社の利益だけを追い求めない「利他の心」を唱えていたが、自らそれを実践したことになる。
一方の永守氏は経営者として卓越した実績があり、社格も十分ながら、財界団体のトップに担ごうという声はほとんど聞かれない。
不祥事で辞任に追い込まれた大企業の元社長は、永守氏からこう言われたという。
「あなたの失敗は部下を信用し過ぎたことだ。私は基本的には人を信用していない」
※約7000字の全文では、永守氏の近況について関係者が証言しています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年8月号に掲載されています(井上久男「永守重信、稲盛になれなかった男」)。
