天下を動かした武将ではなく、その足元で戦った名もなき雑兵を主人公にする――。人気シリーズ「三河雑兵心得」に、「北近江合戦心得」「真田武士心得」シリーズを合わせた「井原戦国三部作」を手がける歴史時代小説家・井原忠政さんが、執筆の秘密を語った(全3回の第1回)。

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――「三河雑兵心得」シリーズが大変人気ですが、作品について教えていただけますか。

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井原 「三河雑兵心得」シリーズは、足軽として家康に仕えることになった植田茂兵衛の成長と、雑兵目線での家康の天下取りを描く歴史時代小説です。

 物語は、喧嘩のはずみで人を殺めてしまったことで村にいられなくなった茂兵衛が、村一番の大百姓の口利きで、家康の家来である夏目吉信の元に身を寄せるところから始まります。

 戦国ものと言うと、どうしても武将にスポットが当たりがちですが、本作ではそうした人物ではなく百姓出身の青年を主人公にしました。ちなみに、植田茂兵衛という人物は歴史上存在していません。もしかしたら同姓同名の人間がいたかもしれませんが、基本的には架空のキャラクターです。

――実在の人物や出来事と、フィクションが融合しているのですね。

井原 ストーリーの大筋は史実に基づきながら展開しています。ただ、武将や雑兵たちがどのようなことを考えていたのか、どんな戦い方をしたのか、といったことはほとんど記録に残っていません。そうした歴史の空白部分は、私が想像しながら自由に描いています。

 また、架空のキャラクターを登場させるにあたって、戦などの原因と結果は変わりませんが、その過程を少し変更したりしています。

――家康を題材に選ばれた理由は何でしょうか。

井原 子どもの頃から歴史は好きでしたし、そこまで詳しくはありませんが戦国時代の合戦などについて最低限の知識は持ち合わせていました。そして何より、家康の生涯は何だかんだ言ってもハッピーエンドです。物語として描くにあたって、悲劇的な最期では少し書きにくいですからね。そうしたことから、家康をテーマにしようと思いました。

『三河雑兵心得壱 足軽仁義』

グーグルアースで、戦場の地形を立ち上げる

――第1巻では幸田町の菱池や野場城などローカルな描写がありますが、現地取材をされたのでしょうか。

井原 昔の先生たちであればシナリオハンティングしに行かれたと思いますが、私は行っていません。国土地理院の地図やグーグルマップ、グーグルアースなどを活用しました。これらを使うことで、その場に行ったような雰囲気を感じることができます。特に、グーグルアースは地形や建物を立体的に見ることができるので、山の形が山岳なのか丘陵なのか、どの程度の勾配の坂なのかといったこともある程度分かります。

 菱池の南側にはかつて野場城がありました。夏目吉信が三河一向一揆の際に籠城した城です。現在では野場城跡として一部の土塁が残されているのみですが、上空からその地形を見ると中世城郭としての特徴が見て取れ、城としての痕跡を感じることができます。そうして得られた情報を基に、当時の雰囲気を想像して描写しました。

野場西城土塁