足軽は何を背負い、何を食べたのか
――風景だけでなく、具足や鉄砲などの装備品の重量や、雑兵の食糧事情なども事細かく記されています。
井原 これまでの歴史小説というのは、武将や英雄目線ということもあり、政治的な内容が多かったと思います。ですが、私はあまりそういったところに興味が無かったのと、多くの作家さんが既に書かれていたので、少し枝葉末節なところにこだわろうと考えました。歴史はあまり詳しくなかったので、いろいろと調べてノートを作りました。
総重量20kg近い装備を身に付けて、1日に20kmを歩く。遠征時の足軽1日分の食糧は6合分の干飯、味噌2勺、塩1勺(18ml)。
具体的な数字を示すことで、イメージが湧きやすくなると思います。そうした細かな部分も読者に興味を持っていただけたポイントかもしれません。
――茂兵衛が武功をあげて出世していく姿もそうですが、弟・朋輩・仲間とのやり取りなど、人間模様も読んでいてワクワクします。
井原 歴史に名を残す戦国武将は、言わば英雄であり特別な存在です。圧倒的な武力や知略を巡らせた戦術など、彼らの天才的な面を以て語られることが多いと思います。
一方で、茂兵衛は凡庸な人間です。そんな凡人にフォーカスすると、どうしてもヒロイズムは感じにくくなります。そのため、執筆にあたっては丹念に人間性を描こうと思いました。
――今年6月にシリーズ最新刊の18巻が発刊されました。今後の展開がとても気になります。
井原 関ケ原の戦いは徳川の勝利で幕を下ろし、18巻では島津の退き口を描いています。茂兵衛はまだまだ苦労しますが、家康の天下取りまでもう少しです。17歳から家康に仕えてきた茂兵衛は、今や50歳を過ぎた侍大将となりました。
ご存知の通り、家康は関ケ原の戦いから16年後の1616年に亡くなります。今後のストーリーとしてそこは描きます。茂兵衛がその後どうなるのかは言えませんが、色々と想像していただければと思います。
井原忠政(いはら・ただまさ)
神奈川県出身。中央大学法学部法律学科卒業。2000年、脚本「連弾」が第25回城戸賞に入選し、経塚丸雄名義で脚本家デビュー。主な作品に『鴨川ホルモー』『THE LAST -NARUTO THE MOVIE-』などがある。16年、『旗本金融道(一)銭が情けの新次郎』(双葉社)で時代小説デビューし(経塚丸雄名義)、翌年、同作で第6回歴史時代作家クラブ新人賞を受賞した。20年、ペンネームを井原忠政に変えて歴史時代小説「三河雑兵心得」シリーズ(双葉文庫)の刊行を開始。同シリーズで日本ど真ん中書店大賞2023を獲得。22年、「北近江合戦心得」シリーズ(小学館時代小説文庫)、25年、「真田武士心得」シリーズ(文春文庫)の刊行を開始。また同25年、原作の漫画化作品である『羆撃ちのサムライ』が第54回日本漫画家協会賞まんが王国・土佐賞を漫画家の本庄敬と共に受賞。26年には、井原戦国三部作で第15回日本歴史時代作家協会賞「シリーズ賞」を受賞。

