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寅さんは「死ななく」なった理由

 ファンには広く知られている話だが、1968~69年にかけて放送されたテレビドラマ版「男はつらいよ」では、最終回で寅さんがハブに噛まれて絶命する。このラストに抗議が殺到し、69年8月に映画版「男はつらいよ」が製作される運びとなったのである。寅さんは一度死んで、映画で甦った。その時点から寅さんは「死ななく」なったのである。

 現在「男はつらいよ」の舞台となった柴又を訪れると、駅前広場の目立つところに寅さんとさくらの銅像が建てられている。渥美清と倍賞千恵子の銅像ではない。あくまでも「フーテンの寅」と「見送るさくら」の像だ。「葛飾柴又寅さん記念館」はファンで賑わい、帝釈天の参道も寅さん一色である。映画の舞台となった場所が観光地化するのはよくある話だが、「寅さん」という架空の人物があたかもそこに実際にいるかのように扱われているのは柴又をおいて他にないと思う。ここにもやはり寅さんは「生きている」のだ。

©文藝春秋

「生きている」寅さんをどう表現するか

 ではその「生きている」寅さんを、「新作」ではどのように表現するのだろうか。1つにはCGという手段がある。阪神・淡路大震災の直後に撮影された48作目では、村山富市首相(当時)に並んで避難所を訪問する寅さんの姿が合成されていた。49作目の冒頭でも満男が見た幻として手を振る寅さんが登場するが、これは過去作からCGで合成したものである。現在の進んだCG技術では、より一層自然に寅さんを映像の中で動かすことも可能なのではないだろうか。

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 あるいはアンドロイドの作製だろうか。以前、松竹の大船撮影所に併設されていた鎌倉シネマワールドには「寅さん」人形があちこちに置かれていたが、渥美清本人がそれを見て「俺はあんな顔かい?」「気持ち悪い」と不快感をあらわにしたという話が伝わっている。しかし現在は二松學舎大学のプロジェクトで作製された夏目漱石アンドロイドが芝居をしたり講演をしたりする時代だ。もしかすると「寅さんアンドロイド」が映画に出演する日もそう遠くないのかも知れない。

「新作」について、会見で山田洋次監督は「ちょっと不思議な映画」と予告している。どのような不思議がそこに隠されているのか、楽しみに来年を待ちたいと思う。