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第1作から見直すと気付く「あること」

 もしかすると「新作」の現代パートでは、おいちゃんやおばちゃん、タコ社長の「死」が描かれることになるのかも知れない。48作の中で、寅さんを取りまく人々は着実に年を重ねてきた。第1作で生まれた赤ん坊の満男は、48作では靴メーカーの営業マンとなっている。「男はつらいよ」は、登場人物がいつまでも年を取らない物語ではないのだ。その先に「死」が待ち受けていてもおかしくはない。

 ところが第1作から改めて映画を見直してみると、年相応に変化していく周囲に比べて「寅さん」の印象がほとんど変わらないことに気が付く。1作目では41歳だった渥美清は、生前最後の作となった48作目「寅次郎紅の花」に出演した時は67歳であった、しかもこの時、医師から「出演は奇跡に近い」と言われるほどガンが進行していた渥美清は、痩せてしまった首筋をマフラーで隠したり、ほぼ座ったり寝転がったりしての演技をしていた。にもかかわらず、不思議と「老けていない」のである。寅さんが旅から旅を続ける存在であることもあいまって、我々はふと錯覚に陥る。「もしかして寅さんはまだ生きていて、ひょっこり顔を出すのではないだろうか」と。

あまり変わらない寅さん ©オギリマサホ

渥美清は車寅次郎に同化した

 むろん渥美清、本名田所康雄という人物が亡くなったことは分かっている。しかし共演者や周囲の人物は、口をそろえて渥美清を「プライベートを表に出さない」と語る。特に「男はつらいよ」が大ヒットしてからは、渥美清はほとんど他の仕事を引き受けなくなったと倍賞千恵子は語る(『お兄ちゃん』廣済堂出版・1997)。また生前渥美清と親交のあった作家、小林信彦も「〈田所康雄に近い渥美清〉は、〈車寅次郎に近い渥美清〉に変化しつつあった。少くとも、衆人の目がある街頭では」(『おかしな男 渥美清』新潮社・2000)としている。

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 渥美清は長年寅さんを演じる中で、プライベートを消して車寅次郎と同化していったのではないだろうか。それは山田洋次監督の「“入れ子”というのでしょうか。車寅次郎の中に渥美清が入っていて、さらにその中に本名の田所康雄がいて。その一番中の田所康雄がすーっと抜け出してしまったけど周りは残っている。観客の心の中にいつまでも生きているのです」(前述インタビューより)という言葉に端的に表れている。