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なぜ寅さんは「死なない」のか――「男はつらいよ」の新作を考える

2018/10/01
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 先日、映画「男はつらいよ」の22年ぶりとなる新作が製作されることが発表された。1969年の劇場版第1作目から数えて、来年で50周年を迎えることを記念してのことだという。しかしご存知の通り、主役の「寅さん」こと車寅次郎を演じる渥美清は1996年に亡くなっているわけで、一体どうやって「新作」ができるというのか。

幻の「49作目」があった

「一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズ」としてギネス記録にも認定された「男はつらいよ」シリーズは、渥美清の死により48作で終了した。山田洋次監督によれば、49作目は「寅次郎花へんろ」というサブタイトルで高知県を舞台とする予定であったが、結局は幻となってしまったという(『週刊朝日MOOK 渥美清没後20年 寅さんの向こうに』2016所収インタビュー「寅さんと渥美清と」)。

68歳で亡くなった渥美清 ©文藝春秋

 ただ、「男はつらいよ」には渥美清の死後に公開された「49作目」が存在する。1997年の「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」である。映画の冒頭と最後に甥の満男(吉岡秀隆)が寅さんについて回想する場面が描かれるものの、内容のほとんどは浅丘ルリ子演じるリリーがマドンナとなる25作「寅次郎ハイビスカスの花」のリマスター版であり、これを49作目と数えないファンも多い。

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現代パートをどう撮影するのか

 2019年公開予定の「新作」も、製作側の松竹が「50作目」と掲げていることから、「49作目」と同じように過去作品の名場面を繋げたものになるのだろうか。新作発表の場ではストーリーは詳しく明かされなかったものの、妹さくら役の倍賞千恵子らが出演する現代パートと、過去の名場面を組み合わせたものになるようである。

 しかし現代パートを撮影するにしても、渥美清が亡くなってからの22年間に団子屋「くるまや」(39作までは「とらや」)を営む三代目おいちゃん役の下條正巳、おばちゃん役の三崎千恵子、隣の印刷会社のタコ社長役の太宰久雄など、主要な脇役がいずれも鬼籍に入ってしまった。帝釈天の住職・御前様役を長らく演じてきた笠智衆が1993年に死去した際には、翌年の46作「寅次郎の縁談」で娘役の光本幸子のセリフを通して御前様が健在であることを表現した。しかしこうも物語に必要な人物がいなくなってしまっては、御前様の時のような対応は難しいだろう。